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2020年10月28日

「古くて新しい」観音開きドア復活 使い勝手は一長一短

マツダが新型SUVの「MX―30」で観音開きドアを復活させた。前後のドアが中央から左右に開く観音開きドアはトヨタ自動車の初代「クラウン」が採用するなど歴史は古いが、現在、国産車では採用車種が途絶えていた。

MX―30の「フリースタイルドア」は、前後ドアを開け放った時の開口部の広さが最大の売りだが、一方でリアドアが独立して開放できないなど使い勝手は一長一短だ。コロナ禍でクルマがもたらす移動時間や空間が再評価される中、マツダは〝古くて新しい〟ドア形状で消費者ニーズの変化に応える。

現代のクルマの多くは、ドアのヒンジが前方についているため後方が開く構造になっている。この逆で、ヒンジが後方について前方が開くリアドアと通常フロントドアを組み合わせると観音開きとなる。

後方にヒンジ、ハンドルが前方についているドア形状だと、前方から乗り降りしやすくなるメリットがある。一方、走行中にドアが開いてしまった場合、風圧を受けて全開になってしまう危険性があるので、海外では「スーサイド(自殺)ドア」とも呼ばれている。

観音開きドアは、古くは1955年に登場した初代クラウンをはじめ、58年発売のスバルの軽乗用車「スバル360」も2枚ドアながら前方が開く形状を採用するなど、乗り降りのしやすさからクラシックカーではよく見られた。ただ、安全性に対する意識が高まる中で徐々に廃れていった。

2000年代に入り、再び観音開きドア採用車が登場する。代表格がマツダの「RX―8」だ。ロータリーエンジンを搭載したピュアスポーツカーだが、開発当時はフォードが4ドア採用を条件としたため、軽快な走行性能と大人4人が乗れるパッケージングを両立する〝解〟としてフリースタイルドアを生み出した。

フロントドアを開けないとリアドアが開閉できない構造や、リアドア内にピラーを埋め込むなど安全性にも配慮した。結果的にRX―8は発売年の03年の国内販売が6万台を突破、12年までの累計販売が19万台超と、スポーツカーとしては大ヒット車となった。

その後もトヨタの「FJクルーザー」や「オリジン」、「bBオープンデッキ」、ホンダ「エレメント」、輸入車ではBMWミニ「クラブマン」やロールス・ロイス「ファントム」など採用車は増えたが、現在はロールス・ロイスを除き観音開きドア採用車は存在しない。

MX―30開発主査の竹内都美子氏は、フリースタイルドアを採用した理由について「クーペルックなエクステリアデザインと乗り降り導線を両立させるため」だったと話す。フロントドアはアプローチのしやすさを確保するため開口角度をマツダ初の82度に設定。コロナ禍で生活様式が変化する中、竹内主査は「自由な発想で自由に使ってほしい」と呼びかける。

新型車の月販目標は1千台に設定するが、丸本明社長は「台数としてはかなりコンサバティブに見ている」と明かす。

MX―30はフリースタイルドアをはじめ、ロータリーエンジンを活用した「マルチ電動化」戦略や、「魂動(こどう)」を派生させた新デザインの採用などマツダ車の中でもかなり挑戦的なモデルであり、他のSUVと一線を画すコンセプトでヒットを狙う。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞10月24日掲載