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自動車産業インフォメーション

2020年10月22日

廃業や事業承継、整備業界でも課題 背景に高齢化や後継者不足

国内の中小企業の休廃業・解散件数は2016~19年の4年間、4万社超(2020年版中小企業白書・小規模企業白書)で推移している。その4万社の中の約6割が黒字企業であるという。

企業実績は良好であっても休廃業を選択する経営者は多く、その主な要因は「経営者の高齢化や後継者不足が背景」としている。また同書では、そうした「貴重な経営資源を、次世代の意欲ある経営者に引き継いでいくことが重要」との提言も行われている。

自動車整備業界においても、高齢化や後継者不足は長年の問題である。これまで蓄積してきた経営手腕や高い技術を残し、次世代へどう伝えていくのか業界全体の課題となっている。

日本自動車整備振興会連合会(日整連、竹林武一会長)の「自動車整備白書(2019年度版)」によると、19年度の自動車整備事業場数は9万1605事業場で、前年度比0・3%減と4年連続のマイナスだった。

新規認証取得工場数が1095件あったものの、廃業工場数が1353件とそれを上回り全体では事業場減となっている。その廃業理由は「自己都合」がトップで502件、「事業合理化」が247件で、それに次いで「後継者難」が224件(前年度は199件)で第3位となっている。

これら上位3位までで全体の72%を占めており、日整連では「人材不足と経営体力向上のための事業縮小が廃業に至る主な原因となっていることには大きな変化は見られない」としている。

近年、メカニックなど人材不足が長期化・深刻化している整備業界では、経営者や整備士の高齢化も課題となっている。これに加えて、加速度を増す技術革新や特定整備といった新制度への対応、大規模な設備投資とその回収方法などが各経営者が抱える悩みの種になっていると見られる。

少子高齢化の進展や国内経済の先行き見通しも不透明で、団塊世代の経営者の多くが引退を迎える時期でもある。廃業や事業継続を諦めるという傾向は、今後加速していく可能性は高いと言えるだろう。

では、自社の自動車整備工場を後継者、または第3者へと事業を継承する決断をした場合、どういう手続きを取っていけば良いのだろうか。全国の自動車整備振興会や商工組合などと提携し、税務、法務に関するサービスを提供する東新宿綜合法律事務所の岩本知生代表弁護士は「自社の現状を知り・分析し、一刻も早い専門家への相談が重要」とする。

「経営者が高齢になると肉体的なリスクがどんどん高まってしまう。それまでに弁護士や税理士、公認会計士などに相談しておくことが大切」で、「経営者が急に倒れてしまってからでは、株式の売買や譲渡が難しくなる」と語る。

早め早めの対策は税制上でも多大なメリットがあり、なにより相続をめぐり親族間などでのトラブルを未然に防ぐという意味もあるとする。

岩本氏は「一定の条件を満たす必要はある」としながらも、「事業継承の特例として税金の免除や一部控除が受けられる場合がある。贈与税の納期延長や次世代への繰り越しなど今後3年のうちに継承すれば大きなメリットが発生する可能性は多い」と言う。

また、相続トラブルを予め回避する方法として企業自体に保険をかけておくなどのノウハウを紹介できる場合もあるとする。

これまで企業の事業承継に関して数々の相談に応じてきた東新宿綜合法律事務所。「今後も、自動車整備業界では事業承継や相続の問題は増えていくと見ている」と言う岩本弁護士は、整備業界での事業承継問題には独特な特徴があるとする。

「こうした問題に対して経営者自身の意識に温度差が大きいと感じている。普段から経理や保険をはじめきちんと対策をとっている事業者がある一方、対策を考えず他人事のように流してしまう方も多いのが現状。

子息などの後継者が乗り気でも、現経営者が『まだ、まだ…』と言っているようではなかなか話は進まない」という。「職人気質の経営者が依然として多い」のが理由の一つではないかと言う。

また、整備工場を運営する経営者本人が気付いていないことも多々あるとする。「当事者たちの想像を超す額まで財産が膨らんでいることがある。工場の敷地や建物のほか、リフトなどの整備機器に高い価値が付く」場合も多いそうだ。そのため、「相続税が高くなってしまい、現金で払えないといったトラブルに陥る場合もある」とする。

高い技術を持ち、地域からも愛され事業を続けてきたという自動車整備工場は全国に多い。だが、事業承継の問題はどの企業にとっても避けて通れない課題である。取引先や従業員、そして地域のユーザーにまで影響を与えかねない事業承継問題。

「この課題はすべて現経営者の責任。そうしたことを円滑に解消していくようでないと、若い人たちが目を向けるような業界になっていかないのでは」(岩本弁護士)と警鐘を鳴らす。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞10月15日掲載