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2020年10月19日

日刊自連載「変わる価値観 ディーラービジョンから見えるもの」(下)

「これから先、大規模な店舗は必要なくなるのではないか」―。新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が解除されて2カ月後の7月。あるディーラー首脳は、これまでの店舗戦略を見直す必要性を指摘した。

人と人との接触をできるだけ避けなければならないコロナ禍はデジタル化を加速させ、その波は自動車流通業界にも波及。新車・中古車営業の新たな姿が模索される中、店舗の役割も変わりつつある。

CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)への対応など100年に1度の変革期と言われる自動車産業界。これまで、国内流通の現場で大きな変化を感じる機会は少なかった。

しかし、新車販売の現場にも深い爪痕を残したコロナ禍は、店舗を軸にした従来の営業活動を停滞させ、インターネットなどを活用した非接触型の販売の必要性を浮き彫りにした。

こうした中、新たな生活様式に対応した営業スタイルは、これまで新車ディーラーとの接点が少なかった若年層の開拓につながる可能性がある。

日本自動車販売協会連合会(自販連、加藤和夫会長)の「ディーラービジョン2019年版」によると、新型コロナが表面化する前に実施した調査で、自動車を保有していない20~30歳代のうち、36%が「無人のショールームの方が良い」と答えている。

「通常の店舗の方が良い」の23%を13㌽上回るなど、新たな店舗形態が求められていることが明らかになった。

さらに同調査では、80%がディーラーへの訪問経験が無く、59%が敷居が高いと感じていることが分かった。自動車の保有を希望している割合が69%に上ったことを考えると、こうしたニーズに対応した営業スタイルを構築できれば、需要の掘り起こしにつながる可能性は十分にある。

同ビジョンでも「敷居の高さを感じている顧客のニーズに沿いつつ、省力化も可能なオペレーションを検討する価値はある」と指摘。映像やITなどを活用した省力化店舗に新車需要を喚起する可能性があるとみている。

一方、新車販売台数、保有台数の減少で、将来的にディーラーの経営環境が厳しさを増すことは避けられない。同ビジョンで示した経営シミュレーションでは、2035年の営業利益率が1・3%になると試算。17年度実績の2・5%と比べると大きく低下する見通しだ。

こうした中、ディーラー経営の根幹を成す保有ビジネスを強化するためには、既納客を防衛するための店舗戦略も欠かせなくなっている。

自動車ユーザーを対象にした調査では、店を選ぶ基準として49%が「近い距離にある、小さいが気軽に相談できる家族的店舗」を選んだ。「少し距離があっても大規模多機能店舗」を望む人は22%にとどまり、より生活に身近な存在として新車ディーラーを求める声は少なくないようだ。

同ビジョンでも、今後のディーラー拠点の在り方について「保有ビジネスと地域に根差したモビリティサービス、生活サービスの拠点を兼ねることが理想」と指摘。新車店舗の新たな存在価値を探る動きが加速している。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞10月2日掲載