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自動車産業インフォメーション

2020年10月19日

台風19号から1年 脱出用ハンマー、高まるニーズ

東日本を中心に猛威を振るった2019年台風19号の発災から12日で1年を迎えた中、ドアガラスを叩き割って車外へ脱出するための緊急脱出用ハンマーの市場規模が伸長している。オートバックスセブンによると、20年7~9月のハンマー売り上げ本数は前年同期比で約1・6倍に達した。

緊急時の避難や移動の手段として自動車が利用されるケースは少なくない一方、エンジンやモーターが浸水すれば走行不能となるだけでなく、車外の水位が一定の高さに達すると車内からドアを開けることもほぼ不可能となる。こうしたトラブルに備える必須用品として、脱出用ハンマーのニーズが高まりつつある格好だ。

昨年の台風19号では、災害関連死を含めた死者が100人を超える(20年4月時点、内閣府調べ)など、台風被害としては近年まれに見る激甚なものとなった。特徴的だったのは、車内で亡くなった人の割合が大きかった点だ。

1999年から2018年の20年間では、屋外での死者数のうち車内で亡くなった人の割合は3割未満だったが、19年台風19号では5割を上回る。脱出用ハンマーを車載し使用方法を習熟していれば、死亡リスクの低減につながっていた可能性は高い。

こうした背景から政府は、従来から実施していた脱出用ハンマーの周知活動を強化している。

今年8月には国土交通省がハンマーの車載を促すプレスリリースを発表するとともに、自動車業界8団体に①車両販売時等にユーザーに脱出用ハンマー搭載を推奨すること②販売店ごとに自社が推奨する脱出用ハンマーを設定すること③脱出用ハンマーを購入するユーザーに正しい利用方法を説明すること―の3点を要請した。

これを受けて、日本自動車連盟(JAF)ではコロナ禍の中でも全国の支部を通じて啓蒙活動・講習会を実施しているほか、新車・中古車販売店でも車両購入時の同時購入を推奨する動きが本格化している。

オートバックスの広報担当者も「安全商品だけに、店頭在庫を絶やさないよう気を配っている。車検などでの入庫の際にも重要性を説明し、購入を提案できれば」と話す。

急速なニーズ拡大の陰で懸念されるのが、使用に適さない製品の流通だ。車載消火器・脱出用ハンマーを製造するワイピーシステム(埼玉県所沢市)の吉田英夫代表取締役は「市販品には女性や高齢者の腕力ではガラスを割れないものや、夏場の車内温度上昇で変形してしまうものも少なくない」と指摘する。

同社は脱出用ハンマーのJIS規格化を経済産業省に提案し、16年に規格制定を実現した。「使うときは命にかかわるとき。信頼性の高いものを購入してほしい」と話す。

脱出用ハンマーは搭乗者の生命確保に直結するだけでなく、他車の救援時にも役立つ。シートベルトカッターや消火器と一体となった多機能商品も多く、緊急時の生存可能性を高めるための選択肢は増えつつある。風水害が激甚化する中、官民が一体となってユーザーの安全意識を高め、いっそうの普及を促すことが望まれる。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞10月16日掲載