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2020年10月15日

日刊自連載「変わる価値観 ディーラービジョンから見えるもの」(上)

「保有する満足感よりも、その後に何を得られるかの方が大事」―。日本自動車販売協会連合会(自販連、加藤和夫会長)がまとめた「ディーラービジョン2019年版」によると、自動車を保有していない若年層(20~30歳代)のうち、64%がこう回答したという。

車そのものが持つ魅力ではなく、使用することで得られる体験に価値を見出す時代。自動車ユーザーの価値観が多様化し、社会の構造も大きく変化する中、国内の新車販売市場を取り巻く環境が大きく様変わりしている。同ビジョンを基に新車市場の見通しを探る。

1990年に777万台を記録した国内の新車販売(含軽)。ここ数年はおよそ500万台前後の水準で推移してきた。

こうした中、同ビジョンでは2019年度に約504万台だった国内の新車販売台数が15年後の35年度には397万台にまで縮小し、400万台を下回る見通しを示した。さらに40年度には358万台と19年度と比べて3割減少すると予測している。

25年には団塊の世代が後期高齢者となるなど、人口減少も含めた構造的な変化によって新車の販売台数縮小は避けられない。さらに「保有」へのこだわりを持たない世代、価値観の台頭は、新車市場にも確実に影響が広がりそうだ。

20~30歳代の自動車非保有者への調査によると、車への関心は「低い」と「あまり高くない」を合わせて73%に上り、「深刻な事実」と指摘している。

また支出の優先度が高いものは「スマホ、IT機器」が25%だった中、「自動車購入・維持費」は2%とごくわずかに過ぎない。「車を購入して保有することは、維持費も含め非現実的だと思う」と答えた人が68%と、若者の生活の中で自動車の存在感は確実に薄れた。

こうした中、新たな需要の創出要因として期待しているのが電動化、自動化、コネクテッド化だ。車そのものが大きく変わることで代替需要が期待できるほか、「つながるクルマ」などによって自動車への付加価値となる新たなサービスが投入されれば、関心の低い若年層の掘り起こしも期待できる。

さらにビジョンでは「ドア・トゥ・ドア移動の利便性」の追求が需要喚起に有効であると指摘した。豊かに生活する上で重要なことについての質問では、「お金」に次いで「時間」を2番目とした回答が31%あり、特に年齢が低いほど高かった。自動車での移動が「時間の有効活用になることを訴求することは意義がある」としている。

また新型コロナウイルスで働き方改革や新たな生活様式が求められる中、パーソナルな移動手段としての価値が見直されている点も追い風となりそうだ。調査に新型コロナの影響は反映されていないものの、61%が自動車を「貴重な交通手段」とみており、車の利便性への評価はコロナ前から高かった。

企業のリモートワーク化によって都心部から離れた生活を求める傾向も出始めているなど、ユーザーが自動車に求める価値観もさらに変化する可能性があり、今後の需要動向を注視していく必要がある。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞9月30日掲載