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自動車産業インフォメーション

2020年8月31日

日産、災害時の給電でEV活用 自治体との連携協定拡大

日産自動車が災害時に電気自動車(EV)の給電機能を活用する取り組みを広げている。災害時にEV「リーフ」を派遣する連携協定の締結は全国で50件を突破。年度内には100件超えを目標に掲げる。

7月上旬に九州地方を中心に被害をもたらした集中豪雨では、協定とは別に被災した旅館にリーフを派遣するなど、協定の枠に捉われない活動事例も出てきた。リーフから、より大きな電力を取り出す給電機の導入検討も進めており、災害時のみならず環境やエネルギー、観光など地域課題に役立てる社会インフラとしてのEV活用を加速する。

日産は電動化アクション「ブルー・スイッチ」の一環として、災害時にリーフを〝走る蓄電池〟として役立てる災害連携協定を全国各地の自治体や企業、地域のディーラーと締結している。協定を結ぶ自治体では公用車としてリーフを導入するケースもあり、平時から環境性能に優れたEVを活用する動きも広まっている。

近年、大雨など大規模自然災害の発生が相次ぐ中で、実際にリーフを活用する事例も出てきている。2019年9月の台風によって大規模停電が発生した千葉県においては、日産が50台のリーフと電力を取り出すための可搬型パワーコンディショナーを派遣。

避難所などで給電するEVの姿がSNSなどで拡散され、移動手段だけでないEVの活用方法が注目されるきっかけとなった。

今年の九州を襲った豪雨では、川の氾濫で床上浸水被害にあった熊本県中部にある旅館にリーフを派遣した。災害連携協定の枠組みによる車両派遣ではなかったが、地域のディーラーとの連携によって素早くリーフを被災現場に届けることができた。

一方で、九州豪雨では被災状況や支援要求の把握など情報収集が困難で、被災地や被災者とリーフによる支援を結びつける仕組みづくりや日ごろからの啓もう活動の重要性も浮き彫りとなった。

支援活動を通じ、災害時に求められる電力のあり方も見えてきた。従来の連携協定では可搬型パワコンでリーフに蓄えた電力を利用し、扇風機や電気ストーブ、テレビや電子レンジ、携帯電話の充電など家庭用のコンセントと同様の電力を供給してきた。

一方、介護施設などでエレベーターや大型空調、大型冷蔵庫など業務用機器が停電で利用できなくなった場合、三相200㌾の電力が必要となることが分かった。日産ではこうした要望にも対応できるよう、リーフからより大きな電力を取り出す定置型パワコンの導入準備を進めている。

約10年前にリーフを導入した日産は、当初から社会の変革や地域課題の解決に役立てることを念頭にEVの普及促進に取り組んできた。国内事業に関わる日産関係者らが参加した20日のオンラインミーティングで、星野朝子執行役副社長は「再生可能社会ではエネルギーマネジメントが大きなテーマになる。

エネルギーをいかに効率的に使っていくか、情報や知恵を有しているのがEVの先駆者である日産だ」と強調した。21年半ばに国内投入予定の新型EV「アリア」においても、大容量電池をパーソナルな移動手段にとどまらず社会インフラとして活用していく考えは変えない。アリア投入によってEVを利用した活動はさらに広がりを見せそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞8月26日掲載