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自動車産業インフォメーション

2020年8月27日

日刊自連載「流れを読む 国内マーケット展望」(3)整備

整備業界は今年、大きな転換期を迎えている。4月に道路運送車両法が改正され、先進安全自動車の進化を見据えた「特定整備」制度がスタートし、自動車整備のあり方そのものが大きく変わろうとしている。

4年間の経過措置があるとはいえ、2024年度には「OBD(車載式故障診断装置)車検」も始まるなど、電子的な整備が必須となる。自動車ディーラー、分解整備を中心とする整備専業者はもちろん、車体整備、電装整備、ガラス修理事業者も含め、どのような枠組みで整備ビジネスを展開していくか〝答え〟を求められている。

特定整備制度の導入で、カメラやレーダーなどセンシング装置のエーミング(機能調整)作業などを行う「電子制御装置整備」が新たに加わった。すでに認証を取得した事業者をはじめ、ディーラーや大手の分解整備専業者では、エーミングをどのような形で行うかなど電子制御装置整備に対していち早く具体策を講じているところが多い。

車体整備、電装整備、ガラス修理の各事業者も、新しい流れを従来の〝下請け〟にとどまらないビジネスチャンスになり得ると捉え、電子制御装置整備の認証取得に動き出すケースが目立つ。

例えばガラス修理事業者の中には、発注先の工場で構内作業を行うなら「従来と大きな変わりはない」としながらも、選ばれる事業者になるため、整備士の要件を満たそうと社員に電装整備士資格を取得させるなど、作業品質向上への取り組みも活発化している。

多くの業界関係者から「早く(制度に)対応するべき」と指摘する声が上がる中、「(猶予期間の)4年間のうちに考えればいい」「周囲の様子を見てから判断する」といった声も聞かれるように、企業間での温度差もある。取り組み開始時期と姿勢が今後、大きな差になって表れる可能性がありそうだ。

新型コロナウイルスの影響により、法律の施行前から各地で行われる予定だった各種説明会が中止となるケースが増えた。制度の中身も十分に理解できないと戸惑う事業者も少なくない。認証取得に必要な講習会も、一旦スタートしたが開催が見合わせとなった。地域によっては、期間内に受講が間に合わなくなるのではないかと心配する声も聞かれる。

一方、整備需要は、これまでのところ大きな影響はみられないようだ。緊急事態宣言下でも休業を要請されることはなく、期間中も入庫台数は安定的に推移した。外出自粛で事故が減少したことなどから車体整備は入庫が減ったとみられるものの、法定需要に支えられた車検や定期点検に大きな変化はない。

むしろ「3密」を避けるためマイカーの利用が増えたとも言われ、整備事業者にとって悪い材料はあまり見当たらない。新車販売が大きく落ち込み、3年後の車検需要に影響するとの見方もあるが、保有台数に大きな動きはなく、需要は底堅いと言える。

一部の事業者に危機感が薄いのも、こうした市場動向が背景にあると想定される。しかし先進安全自動車は確実に進化し、その安全を担保するための車検や点検も姿を変えていくことは間違いない。21年10月からは12カ月点検に新基準「OBD診断」が導入される。

22年度中には、車検証のICカード化への対応もある。相次ぐ新制度に対応するためには「のんびりしていられない。猶予期間はそのためにある」(大手整備専業者)と、いち早く準備に取り掛かる事業者がある。

また、認証取得の先を見据えて動き出している事業者もいる。「エーミングにはボディーのゆがみ矯正が不可欠。これからアライメントが重要になってくる」と、設備投資に動き出すところも。

4年間の猶予期間を〝様子見〟で過ごすのか、準備に有効活用するのか。取り組みによって事業者間の格差がさらに拡大することにもなりかねないだけに、早めの対応が求められている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞8月12日掲載