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2020年7月9日

マレリ 人工呼吸器生産ラインを公開

部品メーカーの量産技術が人工呼吸器普及に一役―。マレリは6月30日、電子部品などを生産する児玉工場(埼玉県本庄市)に設置した人工呼吸器の生産ラインを報道陣に公開した。

人工呼吸器専門メーカーのメトラン(新田ダン社長、埼玉県川口市)と製造委託契約を結び、新型コロナウイルス専用機器の組み立てを支援している。1日には最初の量産製品をボリビアに向けて出荷。今後、人工呼吸器を必要とする世界各国に届ける予定だ。

現在自動車産業は、業界、業種の枠を越えたワンチーム体制で新型コロナウイルスの感染防止と関連企業のサポートなどに乗り出している。

マレリの取り組みは成果の一つであり、自動車産業のサプライチェーンを支える部品メーカーとして培ってきたものづくりのノウハウをコロナ禍対応に生かしていく。

「完璧なものを1個作れと言われれば作れる。それが1万個をミスしないで作れるかというと難しくなる。一つひとつの作業で確実に同じことを繰り返せるというのが量産のノウハウ」。マレリで人工呼吸器生産の陣頭指揮を執る石橋誠常務執行役員はこう強調する。

これまでメトランでは、年間100台程度の人工呼吸器を生産していた。ところがコロナ禍の影響で需要が急増。現在は1、2万台レベルの引き合いが来ている状況だという。

ただ、メトランは年産100台。しかも4、5日をかけて1人の従業員が組み立てている状況だった。「量産しているわけではないので、何から手を付けていいか分からない。一方で、当社はモノを大量に作る術を知っている。

そこで人工呼吸器をわれわれが作るというコラボレーションが生まれた」(石橋常務)と、部品メーカーならではの強みが人工呼吸器生産にも生かされていると話す。

自動車部品と人工呼吸器の生産を結んだ技術こそ、量産というノウハウだ。マレリでは4、5日をかけていた組み立てを15分(最短5分)というタクトで行う。

この生産工程を実現するため「すべての作業工程をバラバラに分割した。ただ単に分割するのではなく、どのようにばらして、どの工程までをワンブロックにすると全体のタクトが合うのか。さらに、この工程にこの作業を入れると間違いを起こしやすくなるから入れてはいけないなど、分割した作業工程の一つひとつの中身まで気を付けながらライン設計を行った」(同)という。現状、月産2千台の生産体制を整えている。

人工呼吸器は命に直結する医療機器だけに決してミスは許されない。それは自動車部品もまた同じだ。だからこそ、「今までのものづくりの経験値が生きている。日本の自動車産業が積み上げてきた価値だ」(同)と強調する。

人工呼吸器の生産ラインは、児玉工場でものづくりに関する研修を行う「ものづくり道場」内に設置した。

①サブ(構成部品の組み立て)②組み立て③調整④エージング(負荷テスト)⑤検査⑥品質保証検査⑦梱包という7工程で構成されており、スキルの高い従業員が選ばれ作業にあたっている。

現在は7人が担当しているが、生産量に応じて人員体制をフレキシブルに動かせるようにしているという。

1人の従業員が少なくとも2つの工程を担当できるようにしていることも、自動車部品生産の中で培った量産のノウハウ。1人が休んでもフォローできる体制を整えている。

今回、児玉工場で人工呼吸器を生産するにあたり、自動車部品の生産ラインから従業員が抜けたことで、そのフォローを同社の群馬工場に依頼したという。

「群馬工場から児玉工場までクルマで1時間半もかかるのに、応援に行きたいと手を上げてくれた人が多かった。選ばれずにがっかりしていた従業員もいて、本当に嬉しくなった」と石橋常務は素直に喜ぶ。

新型コロナウイルスの終息はいまだ見通せず、依然として自動車産業全体に影響を与えている。

日本自動車工業会、日本自動車部品工業会、日本自動車車体工業会、日本自動車機械器具工業会の4団体が中心となり、自動車産業が一丸となったコロナ禍対応を進めており、マレリの人工呼吸器生産は部品業界が持つものづくり力を生かした取り組みと言える。

石橋常務は人工呼吸器の生産について「社会的意義のある、本当にやるべき仕事だ」と断言する。マレリのみならず日本の部品メーカー各社が持つ量産ノウハウは、自動車産業を支えるにとどまらず、幅広い領域で力を発揮する可能性を秘めている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞7月6日掲載