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2020年6月16日

日刊自連載「コロナ・インパクト 自動車メーカーの決算を読む」(4)ものづくり

国内生産300万台にこだわるトヨタ自動車。豊田章男社長は「残してきたのは300万台という台数ではなく、世の中が困った時に必要なものを作ることができる技術や技能を習得した人材を守ることだ」とオンライン決算会見で語った。

■日本経済をけん引する自動車産業

コロナ禍では、日本のものづくり力が再認識された。医療物資の需給状況がひっ迫する中、政府の要請も踏まえて自動車業界は4月に医療現場への支援を表明。多くの企業がマスクやフェイスシールドや医療用ガウンなどの生産に乗り出した。

国内の自動車生産台数は、輸出の伸びに支えられ1980年代に急拡大し、90年には年間1400万台弱に達した。その後は通商摩擦などを経て現地生産が加速。昨年は約968万台(前年比0・5%減)と3年ぶりに前年実績を下回った。1千万台割れは11年連続だが、500万台前後の内需を上回る生産基盤を今でも保つ。

各社がグローバルに事業を展開する一方で国内生産にこだわるのは、日本の重層的な産業構造も活用し、開発力や生産技術などを磨くマザー拠点と位置付けているからでもある。

リーマンショックや超円高、東日本大震災などを乗り越えた日本の自動車産業は、国内製造業の約2割に相当する約60兆円の出荷額を誇り、関連産業も含めて全就業人口の8%(約550万人)の雇用を支える。

■フェイスシールドや感染者搬送車両提供

コロナ禍では、こうしたものづくり基盤や物流ノウハウも応用した支援の輪が広がる。トヨタグループは4月7日に医療現場への支援を表明。デンソーがクリーンルームを活用してマスクを生産するほか、豊田合成はエアバッグ生地を使い、医療用ガウンの提供を始めた。

日産自動車は医療用ガウンや医療用物資の輸送車両の提供に加え、感染防止に向けカーシェアリングサービス「e―シェアモビ」の一部無償化にも踏み切った。ホンダもフェイスシールド生産のほか、感染者搬送車両を日米で提供する。

4月10日、日本自動車工業会会長として他3団体と緊急会見に臨んだ豊田社長は、東北に集積した自動車産業について「多くの方から『経済合理性からすれば、国内にとどまるのは間違いである』とご指摘いただいたことを今でも覚えている」と語った。

東北では93年に関東自動車工業、2011年にセントラル自動車(現在はともにトヨタ自動車東日本)が操業を開始。1994年には日産もエンジン工場を新設した。

東日本大震災から9年が経ち、自動車関連の出荷額は当時の500億円から8千億円に、進出企業は100社から170社に増えた。豊田社長は「あの時、国内生産にこだわったことは間違いではなかった」と振り返った。

今期の研究開発費や設備投資について、各社は「生き残るためには何としてもやっていかないといけない」(ホンダの八郷隆弘社長)、「コロナの影響で見直すことは考えていない」(スバルの中村知美社長)と口をそろえた。

豊田社長も自動車産業の波及効果に触れ「私たち自身が踏ん張って経済を回し続ける」と決意を語る。自動車各社が守ってきた国内のものづくり基盤が、文字通り経済回復のエンジンになる。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞6月4日掲載