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自動車産業インフォメーション

2020年6月15日

日刊自連載「コロナ・インパクト 自動車メーカーの決算を読む」(3)コスト

3月半ばから4月にかけてほぼ全面的に稼働が止まった自動車の生産工場が徐々に日常を取り戻している。7社が業績予想の公表を見送った2021年3月期の先行きは不透明だが、少なくとも生産活動は南米などの一部地域を除いて4、5月を底に上昇基調に向かいそうだ。

一方、コロナ・インパクトは、自動車メーカーが中長期的に解決していかなければならない〝宿題〟を各社に与えた。サプライチェーンの国内回帰と分散化だ。21年3月期は厳しい経済環境を乗り切るための収益改善と生産・調達活動におけるリスクとコストのバランスを見つめ直す一年になる。

■自社で改善できる領域で

2月以降、世界の自動車工場はウイルス感染の拡大に連動するように次々に稼働を停止した。感染源となった中国では1月下旬の春節休暇を延長する形で最長3月半ばごろまで稼働を停止。その後、中国のほぼ全拠点が稼働を再開すると、今度は3月中旬以降に欧州、北米、アジアの拠点が稼働を停止していった。

前年度の業績に中国以外の生産停止が与えた影響は実質2週間ほどのこと。ただ、トヨタの20年3月期営業利益にはコロナ禍が1600億円分、ホンダには1300億円分の減益要因となった。6月にかけて正常化に近づきつつあるものの、21年3月期の第1四半期(4~6月)はさらに厳しい業績になる見通しだ。

稼働停止に至った理由は需要減少による生産調整や政府の規制、部品の調達難など企業、地域によってさまざまだ。各社はその中で唯一、自社で改善できるサプライチェーン領域の強靭化をもう一段発展させる。

そもそも自動車各社は、東日本大震災でサプライチェーンが寸断した経験をもとに、調達ネットワークの強靭化を図ってきた。トヨタの場合、震災後に「レスキュー」というシステムを導入し、サプライチェーンの不備の特定にかかる時間を当時の2週間から半日ほどに短縮。

各社も同様にサプライチェーンの見える化や複数購買などの対応を進めてきた。それでも「今回、いろいろな混乱があった。各地域、グローバルに必ず残せる生産台数をどう維持するかという答えを真剣に考える」(トヨタ自動車調達本部長・白柳正義執行役員)。

コロナ禍によるサプライチェーンの寸断は大きく2つのフェーズに分けられる。まずは3月半ばまでにみられた中国製部品の調達問題だ。2月14日に初めて国内工場を止めた日産は中国の物流網の乱れで生産を停止。その他のメーカーも中国製部品の代替生産を迫られた。

部品調達難で国内拠点の稼働を止めたホンダの八郷隆弘社長は「必要があればコストを使って国内に戻すことを考えていきたい」と国内回帰を示唆する。サプライチェーンの国内回帰を巡っては、政府も総額2200億円の「国内投資促進事業費補助金」を20年度補正予算案に計上。

一時品薄状態になったマスクなど医療物資の国内回帰が主な用途と想定されるものの、中国への依存度が高まる自動車業界でも補助金の利用が検討されている。

■苦難を経験するたびに

一方、3月半ばを過ぎて各国に感染拡大が進むと国内回帰以上に分散化の必要性が説かれるようになった。実際、ホンダやスズキ、ダイハツ工業、スバル、三菱自動車などが中国製以外の部品調達難により、国内の稼働を一時停止した。

特に東南アジアやインド製の部品の調達が難しく、三菱自の加藤隆雄CEOは「海外サプライヤーの稼働が戻っていないところもあり、こうした部分が明確にならなければ(21年3月期の業績予想を)具体的に算定するのは難しい」という。

政府も「海外サプライチェーン多元化等支援事業」として総額235億円の予算を計上しており、主に東南アジア地域におけるサプライチェーンの分散化を推進する。

リーマンショックや東日本大震災と苦難を経験するたびビジネスモデルを改善してきた自動車各社。コロナ禍を契機に強靭なサプライチェーンの再構築を図る。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞6月3日掲載