2020年6月12日
日刊自連載「コロナ・インパクト 自動車メーカーの決算を読む」(2)予兆
上場する自動車メーカーの2020年3月期決算は、スバルを除く8社が減収減益となり、そのうち2社が最終赤字に転落した。新型コロナウイルスや為替の影響を除けば、トヨタ自動車やホンダは増益になるはずだった。
世界的な新車需要の低迷や円高による輸出の採算悪化、次世代技術への対応に向けた投資などが収益を圧迫する中、各社は経営基盤を盤石にするための構造改革を進めていた。その矢先に起きた想定外のコロナショックは、結果的に各メーカーが置かれている状況を鮮明に映し出すこととなった。
■コロナなければ増益
100年に1度といわれる変革期に直面し、体質強化を推し進めてきたのがトヨタだ。上期(19年4~9月)では、商品改良による販売増や販売奨励金(インセンティブ)の抑制に加えて原価低減活動が実を結び、当期純利益が過去最高を記録。
第3四半期では販売減で減益となったが、同時に通期見通しは原価低減や為替変動分が想定以上となるため当初見通しを上方修正していた。
ところが第4四半期で状況は一転する。トヨタはコロナの業績影響として売上高で3800億円、営業利益1600億円のマイナスが生じたとしており、「もし、コロナ影響がなければ、2850億円の収益改善だった」(近健太執行役員)。
ホンダも為替やコロナを除くと、コストダウン効果などで実質は1008億円の増益だった。スバルは主力の米国販売が好調に推移したのに加えてインセンティブの抑制などによって、上場自動車メーカーでは唯一増収増益を果たした。
■業績悪化は需要減が根底
一方、世界需要の減速に収益確保が追い付かず、さらにコロナ禍によって最終赤字に転落したのが日産自動車と三菱自動車だ。日産はこれまでの拡大路線があだとなり、生産能力への過剰投資と商品投資抑制によるモデル高齢化、販売拡大のためのインセンティブの増加などでコロナ前から業績悪化が鮮明となっていた。
都度、業績立て直し策を打ち出してきたが、コロナの影響で“止血”が間に合わなくなり、最終赤字が仏ルノー傘下となった20年前の水準にまで落ち込んだ。日産は決算発表と同時に「過去の反省点から過度な販売拡大を狙わず、収益重視と着実な成長を果たす」(内田誠社長兼CEO)4カ年計画を打ち出し、業績立て直しを急ぐ。
企業連合を組む三菱自もまた、拡大戦略によって固定費がかさむ体質となり、販売減で一気に収益が悪化した。加藤隆雄CEOは「固定費は今後2年間で19年度比20%以上削減し、15年度レベルに戻す」と、これまでの拡大路線から「選択と集中」を進める経営方針を明確にした。
また、仏ルノーとの3社連合で新たに打ち出した戦略をベースとした具体的な中期経営計画を今期の第1四半期決算発表時に示す方針だ。
コロナの影響によって各社が厳しい結果となった先期決算だが、世界需要の低迷によって業績悪化の予兆は第3四半期あたりから出ていた。それだけに、基盤固めを進めてきたか否かによってコロナショックの業績へのインパクトには差が出た格好だ。
21年3月期はコロナ禍による視界不良下でもトヨタをはじめ3社が見通しを示したが、今期はこれまでの取り組みによって業績結果の差はさらに広がるかもしれない。
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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対象者 | 一般,自動車業界 |
日刊自動車新聞6月2日掲載