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自動車産業インフォメーション

2020年5月7日

コロナ感染拡大で見直される自動車の価値 マイカー通勤の推奨

新型コロナウイルス感染拡大の影響で自動車の価値が見直されている。人と接触することなく目的地まで移動できる自動車は、感染リスクが低く、企業や自治体の間では電車やバスからマイカー通勤に切り替える動きも盛んだ。

ただ、カーシェアリングなど不特定多数が利用するサービスの状況は厳しく、一部事業者からは「誰が触ったか分からない車に乗ることに抵抗がある人は多いはず。コロナの状況をみるとカーシェアは流行らないのかもしれない」といった声も漏れ聞こえる。コロナ禍で「所有」から「利用」へのトレンドが揺り戻しを起こす可能性もありそうだ。

「時間はかかるが、事態が落ち着けば車の需要は以前よりも拡大する」。特別警戒都道府県の1つに指定された北海道・札幌市のある日産自動車系販社は、足元の受注が前年同期比で2割減と落ち込む。それにも関わらず、同社首脳の声色は明るい。「コロナ禍が車の必要性を感じさせるきっかけになった」と考えているためだ。

個人向けカーリース事業を手がけるナイル(高橋飛翔社長、東京都品川区)が緊急事態宣言の発令された7都府県を対象に市場調査を実施した結果、約5割が発令後も車の利用頻度は変わらないとし、約2割は増えたと回答したという。都市部で感染防止のためにマイカー通勤を推奨する動きが目立っているほか、日用品の買い出しなどでも車の積載性を生かせば一度に多くの物を買い込むことができるため、外出機会を減らせると自動車の活用が進む。

ただ、短期間・短時間の利用が多いカーシェアサービスにとっては厳しい局面だ。トヨタ自動車の「トヨタシェア」は昨年10月の全国展開開始後、ステーションを約180カ所まで急速に拡充し、利用件数を増やしていたものの、東京都などの一部拠点ではコロナ禍の影響で営業活動を一時休止した。

ホンダも「2、3月に前年同期と比べて20%増だった利用件数の伸び幅が大きく縮小した」という。レンタカーなども同様だが、不特定多数が車を使用するサービスは心理的な抵抗が存在し、対策のための事業者側の負担も大きい。

そうした中、コロナ禍で見直された車の価値をカーシェアで提供しようと新たな取り組みも始まった。日産は自前のカーシェア事業「e―シェアモビ」で5月中、利用料金を1回当たり1600円分(1~2時間程度)割り引く。近場の買い物程度であれば無料で利用できるようになる。感染防止のため、除菌スプレーの設置など感染防止対策を施し、生活維持のための外出や医療従事者らに役立ててもらう考えだ。

「利用」の中で堅調に推移するサービスもある。1カ月単位などで使用できる「所有」に近い「サブスクリプションサービス」だ。ホンダが1月に埼玉県で開始した「マンスリーオーナー」は4月以降に「『海外赴任で車を売却したが、異動が延期となったため、まずは1カ月利用したい』。こうした顧客が増えた」(ホンダ)。

自動車メーカー以外でもガリバーを運営するイドムが2月に開始した「マイカー・トライアル」は緊急事態宣言の発令後の現在、利用者数が3月初旬と比べて2倍に増加。医療従事者が利用するケースが多いという。

コロナ禍は、自動車に対する重要性を改めて認識させるとともに、モビリティサービスに対するユーザーニーズの一面が見える契機になる。収束後は、マイカーへの回帰が見込まれる一方、サービスが多様化する「利用」のあり方も変化するとみられる。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞4月27日掲載