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自動車産業インフォメーション

2020年5月8日

国内メーカー・インポーター 系列ディーラー通じ中古車戦略強化

国内の自動車メーカーやインポーターが、系列ディーラーを通じた中古車事業の強化を加速している。トヨタ自動車は1日、認定中古車ブランドの刷新やネット通販型の中古車販売に乗り出すことを発表した。ホンダも昨秋から本格展開する新ブランド「ユーセレクト」のスタートに併せ、販社間共有在庫システムの準備に取り掛かるなど強化策を推し進めている。輸入車各社も中古車拠点の増設や新たなウェブ戦略を模索している。

こうした動きの背景にあるのは、サブスクリプション(定額利用)やカーシェアリングの普及をにらんだ備えだ。新たなモビリティサービスで生じた中古車で収益を得られる受け皿を整え、市場の構造変化に対応できる土台を構築する。

トヨタが発表した中古車事業強化策には、中古車ビジネスを構成する3つの要素「小売り」「仕入れ」「卸売り」の各分野で新たな取り組みを盛り込んでいる。全分野に共通しているのがデジタル領域の強化だ。

小売りでは、2020年年央にもオンラインで商談から注文までを完結できるネット通販型の販売をスタートするほか、全国各地にあるトヨタ販社の在庫車の一部を最寄りの店舗で「お取り寄せ」して購入できるサービスも立ち上げる。デジタルを活用することで全国にあるトヨタ販社の中古車事業がネットワーク化されることになる。

日本のメーカー系ディーラーはこれまで、地域ごとに分けられたテリトリー制によって各地の新車販売市場で盤石な販売網を築いてきた。一方、中古車ビジネスにおいては、こうした地域単位での事業展開が弱点にもなりかねない。トヨタの動きも、こうした弱みの解消につながるとの期待もある。

実際、中古車市場では、全国に販売網を敷く大手中古車事業者が台頭している。全国ネットワークを生かした豊富な在庫や販売ルートを武器に、買い取りや小売りの両面で高い競争力で勢力を伸ばしてきたからだ。各自動車メーカーも大手中古車事業者の動向は意識しており、これまでディーラー単位で展開していた中古車事業に横串を刺すことで、対抗していこうと考えている。

ホンダが19年に打ち出した中古車戦略においても、こうした中古車大手事業者などに「外部流出」していた自銘柄中古車をホンダ陣営内に還流させる仕組みづくりが柱の一つだ。準備を進める販社間共有在庫システムでは、各社が小売りしきれなかった在庫を中心に集約し、他のホンダディーラーが小売りできる仕組みを構築。

これまで中古車オークション(AA)を通じて外部に流れていたホンダ車をグループ内に囲い込む。さらに「ユーセレクト」導入に併せて用意した専用の在庫管理システムでは、全国各ディーラーの中古車取引データを集約。分析したデータを活用することで、自銘柄車の取引で競争力を高めようとしている。

トヨタも、従来はAAで卸売りしていた車両を販社間で共有するシステムを構築した。また今後は他メーカー系販社とも同様の仕組みを共有する計画だ。すでに子会社のトヨタユーゼックが運営するAAを通じてスバルやマツダ、ダイハツ工業、日野自動車と中古車流通で協業しており、新たな仕組みではそれぞれの販社が下取りした他銘柄車を、そのブランドのディーラーに融通する仕組みなどを模索しているとみられる。

インポーター各社も中古車事業に力を入れている。メルセデス・ベンツ日本(上野金太郎社長、東京都品川区)は、年内にも全国10カ所に新たな認定中古車拠点を開設する考えだ。アウディジャパン(フィリップ・ノアック社長、東京都品川区)も、ノアック社長が2月の記者会見で「オンラインを駆使」して中古車事業を強化するとの考えを示した。ボルボ・カー・ジャパン(東京都港区)も販売拠点の大型化やデジタル戦略の強化を進めている。

100年に一度の変革期を迎えた自動車業界。国内の自動車流通市場においてもサブスクリプションやカーシェアなど、新たな波は徐々にではあるが押し寄せ始めている。

トヨタの「KINTO(キント)」やホンダが試験的に始めた中古車の定額利用サービス「ホンダマンスリーオーナー」など新たな需要掘り起こしを模索する動きが活発化している。輸入車においても、残価設定型クレジットに加え、月定額で使用できるサービスの拡大に力を入れる動きが広がっている。

人口減少、少子高齢化や自動車への価値観が変化する中、将来的に国内の新車販売台数の減少は避けられない。今後、ディーラーなどが収益を確保していくには、サブスクリプションやカーシェアなども含め、車両1台のライフサイクルを通して利益を積み上げる仕組みづくりが欠かせない。こうした収益構造の変化に備える意味でも、自動車メーカーが中古車事業を強化する動きは、さらに活発化しそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞4月25日掲載