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2020年1月20日

空飛ぶクルマで社会はどう変わる?

「空飛ぶクルマ」の機体開発に注目が集まっている。明確な定義はないが、「電動」「自動」「垂直離着陸」が空飛ぶクルマの主な特徴となっているようだ。部品点数が少ないことや操縦士が必要ないことなど、ヘリコプターと比べて維持費が低い。垂直離着陸が可能となれば、既存のインフラに依存せず最速・最短の移動が可能になる。

実用化されれば、都市部での渋滞や過疎地の交通弱者対応といった問題に対して、莫大なインフラ投資をせずに解決できる可能性がある。日本の産業発展と社会課題の解決が期待されており、トヨタ自動車などがスポンサーを務める「スカイドライブ」、KDDIやキヤノンが出資する産業ドローンメーカー「プロドローン」などが空飛ぶクルマの機体開発を進めている。また、NECは昨年8月に試作機の浮上試験を実施。複数のドローンを自律的に運行管理できる管制システムの開発に取り組んでいる。海外でも、ドイツのボロコプター社がシンガポールで「空飛ぶタクシー」の有人飛行を成功させ、米国のキティーホークが航空宇宙企業のボーイングと提携するなど、空飛ぶクルマの開発に力を入れている。

空飛ぶクルマの実現には技術開発だけでなく、他の課題も残っている。社会実装を可能にする事業者の発掘に加え、空飛ぶクルマを社会的に受容してもらわなければならず国民には正しい理解が求められる。政府が発表した「未来投資戦略2018」では自動運転技術やドローンなど次世代モビリティシステムの構築を目指す方針が示されている。経済産業省や国土交通省、大学教授などの有識者、メーカー・開発者から構成される官民協議会を設立し、空飛ぶクルマの実現に向けたロードマップを策定した。2023年の事業スタート、30年代には実用化の拡大を目指し、安全基準の制定などを国際的な議論を踏まえて実施していく見込み。

昨年12月18日から21日の4日間、日本ロボット工業会(橋本康彦会長)などが主催する「2019国際ロボット展」では、空飛ぶクルマの関係企業の代表者が集まったパネルディスカッションが行われた。官民協議会に参画する、東京大学未来ビジョン研究センター特任教授の鈴木真二氏、経済産業省製造産業局の藤本武士氏、スカイドライブ代表取締役の福澤知浩氏、ヤマトホールディングス社長室eVTOLプロジェクトチーフR&Dスペシャリストの伊藤佑氏が登壇し、「空飛ぶクルマで社会はどう変わるか」について活発な議論を交わした。

空飛ぶクルマの普及にはコストが大きなネックになっており、ボロコプター「2X」の予定価格が約3千万円ということを考えると、1人1台保有するのは現状で難しい。スカイドライブの福澤氏はコストが高い理由に「量産ができない」と、メーカー側の視点を話した。自動車を例にとっても多く生産した方が生産効率は良くなり、安価で提供できるようになる。

ただ、空飛ぶクルマは地上の自動車ほど多くは生産されない可能性が高い。福澤氏は「最初はエンターテインメントとして利用され、制度や技術が整備されるうちに普及する」と話した。「3~5㌔㍍離れた2、3点間を飛ぶには5分の1くらいの時間で移動できる」(福澤氏)ため、観光地を回るツアーなどにも需要がありそうだ。

経産省の藤本氏は「最初はドクターヘリの代わりになるような、医療への導入」を薦めた。現在、ドクターヘリは全国で50台ほどしか運用されていないため、空飛ぶクルマが救命医療に寄与する可能性は大きい。高いコストを払ってでも、短時間で届けなければいけない領域として「ドナーの臓器を運ぶ」(鈴木氏)といった意見も挙がり、道路の渋滞に影響を受けない点を生かした活躍の場は多くあるようだ。

ヤマトホールディングスは米ベル・ヘリコプター社と無人輸送機「空飛ぶトラック」の開発を進めている。地形や道路形状に影響を受けないことや、災害時での運用も可能なことから、ドローンをはじめ、〝空〟を活用した輸送機の開発熱が高まっている。伊藤氏は、空飛ぶトラックの良さに「多頻度性」を挙げた。飛行機や船を使った方が一度に多くのものを運べるが、回転率はそこまで高くない。

「宅急便より少し高くなると思う」(伊藤氏)が、いつでも出発できるため早く届けられる。また、空飛ぶクルマを社会が受容できるかに関しても、伊藤氏は「東京は適応できる」と話した。東京はヘリが飛んでいても、見上げる人が少ない。「東京はヘリと共存しており、空飛ぶクルマも将来的には受容できる」(同)と期待を込めた。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
主催者

日刊自動車新聞まとめ

対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞1月15日掲載