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2019年12月31日

日刊自連載「交通安全・医理工連携の今 世界一への挑戦」(16)三林 洋介 事故の再発防止を考える (ヒューマンエラーは事故原因ではない!)

昨今の自動車による交通事故類型別統計の第1位は追突、第2位は出会い頭の衝突、第3位は右左折時衝突で、数年前からこの傾向に変化は見られません。これらを引き起こした原因としては、安全確認をしなかったこと、脇見運転、速度超過、ブレーキの踏みが弱いこと、交通規則違反、考え事、前方不注意、急ブレーキ、等々、人的な事柄が多く、メディアにもこうした事故原因の見出しには「ヒューマンエラー」、「人的ミス」などの言葉が使用されています。

ヒューマンエラーとは事故原因なのでしょうか。ヒューマンエラーは原因ではなく結果であるため、真の原因を究明する必要があるのです。人間の情報処理行動は、外部情報を感覚、知覚、認知する「入力課程」、判断、意志決定する「媒介過程」、動作を計画し、実行する「出力課程」の3つに分けられます。その過程で発生するエラーを各々「入力エラー」「媒介エラー」「出力エラー」と呼ぶことにします。

運転中に前方の信号が黄色に変わり、ブレーキを踏むシーンを考えてみましょう。考え事をしていたり、脇見をしていて黄色に変わった信号を見落としていたら入力エラーになります。黄色の信号が知覚認知できてもブレーキを踏むことの判断が誤ると媒介エラーになります。ブレーキを踏む判断が正しくても、踏み間違えてしまったり、ブレーキ自体が効かないとなれば出力エラーとなります。

重要なことは、この3つのエラーは再発防止を考える際にその対策がすべて異なるということです。ヒューマンエラーによる事故の再発防止を考える時、入力エラーは情報表示、通信装置の改良が有効となり、媒介エラーを考える時には教育などの見直しが、出力エラーを考える時には機器の操作練習や改善などが有効です。

視認性が悪く入力エラーが多発する事故地点の再発防止策として、ブレーキの踏み間違いをなくすための方策を検討しても有効な対策とはなり得ない訳です。

次に自動車事故の人的要因をドライバーの情報処理行動の観点から3つのエラーに分類してみましょう。発見の遅れ等の入力エラーとしては、前方不注意、居眠り、脇見、安全未確認などがあります。判断の誤りなどの媒介エラーとしては、動静不注視、予測不適、道路形状の認識の誤りや交通規則の認識不足など交通環境把握に関する事項があります。また、出力エラーとしては、運転操作や運転制御の間違いなどがあります。

筆者が行った調査研究で1年間に発生した人的要因が事故原因とされた自動車交通事故について3つのエラーに分類したところ、75%が入力エラー、18%が媒介エラー、7%が出力エラーに分類されました。どうやら我が国の自動車交通事故の人的要因は、ドライバーの入力課程に問題が多く介在しているようです。ひとたび事故が発生すると原因究明と責任追及が成される社会構造でありますが、真の原因究明が成されずして再発防止は出来ないのです。

日本交通科学学会 医療、工学、自動車メーカー、行政など幅広い分野からトップレベルの専門家・識者が参加。それらの知見を融合して安全な交通社会づくりを支援することをねらい半世紀以上、活動を展開している。

ホームページ http://jcts.umin.ne.jp/
公立大学法人首都大学東京 東京都立産業技術高専教授、(一社)日本交通科学学会理事

日刊自動車新聞12月28日掲載

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