2019年12月30日
日刊自連載「平成から令和へ 車業界振り返り」(5)政府の交通事故対策
2019年の自動車行政は、交通事故対策の策定に重きが置かれた。高齢運転者による重大事故が後を絶たず、加齢に伴う運転操作ミスを技術や施策でいかに防ぐかに焦点が当たった。
車の平均保有年数が長くなりがちなシニア層に対して、安全機能の付いた「サポカー」への買い替えを促すため、政府は大規模な補助金の支給や技術基準の強化、運転免許制度の見直しに踏み切った。
高齢者が運転する車の事故が目立つ。16年に神奈川県横浜市で集団登校中の小学生が死傷する交通事故が発生。その後も重大事故が頻発し、今年4月には東京豊島区・東池袋の交差点で、母子が死亡する事故が起きた。
19年版「交通安全白書」によると、18年中に75歳以上の高齢運転者による交通死亡事故発生率は74歳以下の年齢層と比べて約2・4倍だった。死亡事故のうち、運転操作ミスによるものが最も多く、中でもブレーキとアクセルの踏み間違い事故は、75歳以上は5・4%と74歳以下の1・1%と比べて突出している。
悲惨な事故が頻発したことを受け、6月に未就学児と高齢運転者の交通安全に関する緊急対策がまとめられ、各施策の詳細な制度設計が年末にかけて行われた。政策パッケージの軸となったのは、サポカーと既販車向け後付け安全装置の普及だ。
サポカーとは、緊急自動ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置など、ドライバーの安全運転を支援する技術を備えた車。17年の新車搭載率は、緊急自動ブレーキが約78%、ペダル踏み間違い抑制装置が約65%。政府は、20年までに同ブレーキの新車搭載率を9割以上に引き上げる目標を掲げる。
事故防止に効果がある緊急自動ブレーキの搭載車種をさらに増やすため、国土交通省は同ブレーキの乗用車への搭載義務化を決めた。来年1月の同ブレーキの国際基準の発効を踏まえ、自動車メーカーに対して、21年11月以降の国産新型車から段階的に装備を義務づける。
また、国交省は既販車の安全対策として、7月に国内自動車メーカー8社に対して後付け装置の開発を要請したほか、ペダル踏み間違い抑制装置の性能認定制度の創設に向けた議論を進めている。
警察庁は、サポカーのみを運転できる高齢者向けの限定免許制度を導入する方針を固めた。12月に高齢運転者の事故対策を検討する有識者会議の分科会「高齢運転者交通事故防止対策に関する調査研究」の中間報告を公表。新規で取得することが可能で、対象車両は今後の技術の実用化動向を踏まえて検討する。
安全技術を搭載した車の市場投入が進む一方、新技術を取り入れる分、車両価格も高い。また、経済産業省によると、65歳以上の車の平均保有年数は10年。64歳以下の7・7年と比べて年数が長く、高齢者による車の買い替えが進まないという実態もある。
このため、政府は、65歳以上を対象に新車・中古車のサポカーや既販車の後付け装置の購入を支援することを決めた。19年度補正予算案で、サポカー補助金として1127億円を確保。新車については登録車で最大10万円などを補助し、支援実施台数は約100万台にのぼる。サポカーへの買い替えを促し量産効果を高めることで、コスト低減と技術開発を後押しする。(おわり)
日刊自動車新聞12月27日掲載
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主催者 | 日刊自動車新聞社まとめ |
対象者 | 自動車業界 |