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2019年12月25日

日刊自連載「交通安全・医理工連携の今 世界一への挑戦」(15)小濱 啓次 「期待ドクターヘリとは」〈下〉

この状況を一変させたのが、平成7(1995)年1月17日に発生した阪神・淡路大震災であった。この震災では、死者6425名、負傷者4万3772名を出したが、医慮機関は電気、ガス、水道のライフラインの破壊、医療機器の損傷、職員が被災者になり、機能が麻痺してしまった。

また、道路の破壊、ビル、建物の崩壊、倒壊により車が走行ができない状況にあった。このような場合、欧米諸国では、救急医療用ヘリコプターが飛来し、負傷者を被災地外の医療機関に搬送する。しかし、災害当日ヘリコプターにより搬送された負傷者は、挫滅症候群の負傷者わずか1名のみであった。この負傷者は透析により救命されている。震災後の厚生省の調査により、200名以上の挫滅症候群の負傷者が死亡していたことが判明した。

震災後、当時の災害担当省庁であった国土庁が南関東震災を想定した医療と搬送に関する検討会を開催した時、「関係省庁や政令指定都市が所有しているヘリコプターを負傷者搬送のために使用することは、それぞれの担当業務があるため、24時間以内は貸せない」との議論があった。このため厚生省として自ら専用のヘリコプターを所有しなければ、災害における負傷者を救命できないとの結論になり、やっと厚生省が救急医療用ヘリコプターを所有することになった。


ただ、厚生省が当時の大蔵省に予算を提出したところ、搬送業務は消防庁の仕事だと言って全額カットされた。その後いろいろな経過があったが、厚生省は救急医療用ヘリコプターの試行的事業を平成11(99)年10月より開始した。日本交通科学協議会が昭和56(1981)年10月23日に第1回の実用化研究を開始してから20年の年月が必要であったことになる。

平成13(2001)年に導入されて7~8年経過してもドクターヘリの機数は中々増加しなかった。しかし、認定NPO法人であるHEM―Netの理事長、国松孝次氏(現会長、元警察庁長官)と現理事長の篠田伸夫氏(元自治省消防庁次長)のお二人の強力な行政力と、超党派のドクターヘリ推進議員連盟(会長=尾辻秀久参議院議員)の協力によって、救急医療用ヘリコプターの法律「救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法」が成立した。

また、篠田理事長の協力により、総務庁が特別交付税交付金によって財政状態が良くない都道府県の負担金の8割までを補助してくれることになった。
この事により、一気にドクターヘリの導入が、全国に拡がり、現在43道府県に53機のドクターヘリが導入され、58カ所の基地病院がドクターヘリの運航に活躍している。平成30(18)年度には、年間2万9051件の出動があり、平成13(01)年におけるドクターヘリの運航開始以来、通算22万7128件の出動があった。搬送に大きな事故があってはならないとの理念から、今までに1件の死亡事故もなく、安全に運航が行われている。

また、導入されていない福井県、香川県は、知事がドクターヘリの導入を表明した。同じく導入されていない都道府県は、オリンピックが行われる東京都のみになったが、今月の都議会で都知事が導入の検討を表明した。

日本交通科学学会 医療、工学、自動車メーカー、行政など幅広い分野からトップレベルの専門家・識者が参加。それらの知見を融合して安全な交通社会づくりを支援することをねらい半世紀以上、活動を展開している。
ホームページ http://jcts.umin.ne.jp/
川崎医科大学名誉教授(救急医学)
日本交通科学学会理事
日本航空医療学会名誉理事長救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)副理事長

日刊自動車新聞12月21日掲載

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