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2019年12月11日

日刊自連載「交通安全・医理工連携の今 世界一への挑戦」☆13/三宅 康史/交通外傷診療の進化

〇できるだけ早く医療につなぐ

交通外傷では、死因となり得る二つの問題、損傷を受けた重要臓器からの出血のコントロール(止血)と、ショックや低酸素血症に伴う脳の二次性障害(脳浮腫や脳虚血)の回避を目指して、速やかな根本的治療が開始できれば、救命率、社会復帰率の向上が期待できる。

交通事故が起これば、119番が入る。目撃者がいないときや、当事者が連絡不可能な場合に備え、自動でドクターヘリの出動を起動できるAACN、D―Call Netシステム(益子先生掲載分)も運用されている。現場に到着した救急隊は、まず生理学的異常(呼吸の異常、血圧低下、意識障害)のチェック、ついで解剖学的異常の確認、そして受傷機転の3段階で、重症度と緊急度を判断し、搬送すべき医療機関を決定する(参考文献1)。

救出時、搬送中の取り扱いを含め、病院前外傷初期診療(JPTEC)コースが救急隊員・救急救命士向けに全国で開催されており、統一された応急処置が施されている(同2)。

ドクターヘリやドクターカーなら、医師が現場から救急処置を開始できる。受け入れ医療機関の中には、初療室で、放射線学的検査(全身のCT検査)や経静脈的止血術(TAE)、緊急手術(開腹、開胸、開頭)まで、患者を移動させることなく一カ所で行うことができるハイブリッドERシステム(以下HERS)を完備している外傷センターもある。帝京大学医学部附属病院高度救命救急センターも2017年7月よりこのシステムが稼働している (帝京HERS、写真1)。
これらすべてがうまくつながって治療開始までの時間を1時間から30分に短縮できれば死亡率は50%まで向上させることができる(カーラーの生存曲線の「大量出血」参照)。


〇交通外傷専門チームを育てる

交通事故のような重症外傷、多発外傷では、外傷外科医、救急医、放射線科医、そして必要に応じて脳外科医、整形外科医を含めた専門医がチームで治療完結まで担当することが必要である。生処置と並行した的確な損傷部位診断と根本的治療手技の選択とその確実な実行が連続して初めて救命のチャンスが広がる。

帝京でも、第1報が入ったら、外傷外科医、放射線科医、救急医が揃ってハイブリッドER室で患者を待っている。そして経験症例の全ては、日々のカンファレンスの中でスタッフにフィードバックされ、問題点の抽出とその改善が図られている。

また外傷初期診療の標準化のために、医師向けの外傷初期診療(JATEC)コースが02年4月から整備された(同3)。ただ本邦では、重症外傷患者の発生は減少傾向にあり診療機会が少なく、外傷診療に精通した人材育成が非常に困難となっている。それを補うために、ブタを麻酔して外傷手術手技をベテラン外傷医のインストラクターから直接習得するコース(ATOM、同4、DSTC、同5)が帝京大学でも定期的に開催されている(同6)。

〇外傷治療の成績の評価とその改善
日本外傷診療研究機構(JTCR)では、全国の救命救急センターにおける外傷患者の診療データを登録して分析(日本外傷データバンク)することで、本邦の外傷診療の全体像を把握するだけでなく、各救命救急センター・外傷センターの外傷診療の質を定量的に評価し、その改善に役立てている(同7)。ストラクチャー、プロセス、アウトカムそれぞれを改善しつつ交通外傷診療の進化を図っている。

※参考文献
1. 緊急度・重症度の判断.ⅩⅢ.外傷p120-121、救急隊員標準テキスト改訂第5版、2018,へるす出版、東京.
2.JPTEC協議会HPより https://www.jptec.jp/
3.日本外傷診療研究機構HPより JATECコースhttp://www.jtcr-jatec.org/
4.Advanced Trauma Operative Management(ATOM) courseのHPより http://dstc-japan.net/                5.DSTC(Definitive Surgical Trauma Care)-JapanのHPより http://atomcourse.com/about.php
6.帝京大学医学部救急医学講座HPよりトレーニングコース http://teikyo-emergency.com/traning.html
7.日本外傷診療研究機構HP https://www.jtcr-jatec.org/
日本交通科学学会 医療、工学、自動車メーカー、行政など幅広い分野からトップレベルの専門家・識者が参加。それらの知見を融合して安全な交通社会づくりを支援することをねらい半世紀以上、活動を展開している。

ホームページ http://jcts.umin.ne.jp/
帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター/帝京大学医学部救急医学講座、(一社)日本交通科学学会副会長理事

日刊自動車新聞12月7日掲載

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