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2019年11月27日

日刊自連載「EVと社会」(中)移動以外の新たな価値

「車としての価値だけじゃなく、蓄電池によるいろいろな価値をどう提供して電気自動車(EV)の普及につなげるか」(経済産業省自動車課)―。EVに移動以外の価値を見出そうと模索が続く中、車載電池に貯めたエネルギーを必要な時間・場所に供給する電力の調整役としての可能性が出てきた。

経産省がEVの新たな側面に注目し始めたのは2、3年前頃から。きっかけは、資源エネルギー庁が、2011年度から横浜市や愛知県豊田市など4地域で実施したICT(情報通信技術)による新たな都市構想の実現を狙う国内の「スマートコミュニティ」実証実験だった。

豊田市で行った実証では、家庭の電源に電動車からの電気を使うV2H(ビークル・トゥ・ホーム)技術を検証。実験を通じて、車から建物に給電しても安全だということを確認し、V2Hガイドラインの策定に至った。
これまでプラントで発電したエネルギーは、工場や家庭、車へと一方向に送られることが主流だったが、車から他の場所に電力を融通できるようになり「EVがエネルギーリソースとして使えるんじゃないかという考えが徐々に高まっていった」(エネ庁・新エネルギーシステム課)。

最近ではEVに使うバッテリー自体の高性能化も進む。日産自動車のEV「リーフ」の高性能バージョン「e+」に搭載されている電池の容量は62㌔㍗時。これは、多くの一般家庭向け定置用蓄電池容量の約7㌔㍗時と比べて10倍近くの性能を有することを示す。
政府は、こうした高いポテンシャルを秘めるEVを電力網に組み込み、再生可能エネルギーの弱点を補う重要な要素として機能させることを狙う。

国が描く30年度の電源構成比率のうち、太陽光や風力をはじめとする再エネが22~24%程度(16年度は15%)を占め、主力電源の一つとして位置づけられている。石炭などの化石燃料を利用する火力発電と比べて、自然の力をエネルギーに変換する再エネは、二酸化炭素(CO2)の排出を抑えることができ、環境対策に寄与する。

再エネ導入拡大の大きな壁は発電量にムラがあることだ。太陽光発電の場合、日中の出力は急上昇するが、夕方からは日没とともに落ちるため、一日を通してみると発電量の不安定さが目立つ。そこで、高容量の車載バッテリーを調整役として生かすことで、日中発電した電気をいったん電池に貯め込み、夜の出力不足を補うことができる。

ただ、調整役と言われてもユーザーにとってはメリットを感じにくい。電池容量が増え、電気を貯め込むポテンシャルが上がっても「エネルギー面ではいいこと尽くしだが、みんな移動手段としてEVを購入するのであって、蓄電するためにEVを買おうという人はいない」(同)と、今のところ移動以外の使い方の魅力はまだ低い。

エネ庁が行っているバーチャルパワープラント(VPP)事業は、ユーザーにEVを持つうれしさの提供と再エネ導入拡大を両立して進める可能性がある。VPPはEVやヒートポンプ給湯器、コージェネレーションシステムなど、街なかに散らばる複数の小規模エネルギーリソースを統合して、仮想の発電所として機能させるもの。IoT(モノのインターネット)技術を駆使して遠隔操作することで、電力の需要状況に応じて、必要な場所に電力を送る。

電力関連事業者からすれば、大規模な発電機を設置する必要がなく、投資を抑えることができ「家庭にあるEVは事業者からすると宝物に近い」(同)。EVの保有者は、日中や夜間など車を利用していない時には、電力会社に蓄電池としてEVをシェアし、その分の対価を受け取れる。EVのユーザー側にメリットを示し、徐々に新たな価値を広めていくことで、EVの普及拡大につなげていく考えだ。

日刊自動車新聞11月22日掲載

 

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