2019年11月25日
日刊自連載「EVと社会」(上)EVと電力システムの調和
電気自動車(EV)がエネルギーシステムの一角としての姿を現し始めた。台風19号による停電の際、千葉県などで非常用電源に活用されたように、蓄電池の機能を実地に生かす動きが出ている。一方、EVはバッテリーに大量の電気を貯め込める分、電力需給のバランスや系統(電線による電力供給網)に悪影響を与えるリスクもある。現状、日本の新車販売台数(乗用車)に占めるEVの割合は1%未満だが、本格普及した時のエネルギーシステムとの調和に向けた官民の取り組みも始まる。EVと社会のさまざまな関わりを取材した。
「EVの普及政策はエネルギー政策と表裏一体の関係にある」(経済産業省自動車課)―。電気を使って走るEVは、重要インフラの一つである電力と密接に関わる。政府は、環境問題の解決策となるEVを推進するスタンスを取るが「電力インフラに与える影響も考えないと、モビリティの都合だけで議論しても全体最適にならない」(同)と、EVの普及のみに注力するわけにいかない事情を語る。
念頭にあるのは、将来EVの普及台数が拡大した際の電力システムに与える影響だ。
日本のEVの販売台数は毎年じわりと増加しているが、18年実績は約2万7千台と、新車(乗用車)販売全体の0・6%程度の割合。政府は2030年にプラグインハイブリッド車(PHV)と合わせて2~3割へと引き上げる計画だ。
仮に、30万台のEVが普及した地方都市の平日を想定した場合、EVの充電タイミングが特定の時間帯に偏る可能性がある。ユーザーの行動に合わせて、勤務地に到着した朝の時間帯と、夕方から夜の帰宅後という2回の充電ピークが発生することが考えられる。
もし、充電が自由に行われ、タイミングが集中すると、その分電気を送る配線を太くしたり、夜の充電量に合わせた発電設備の稼働が必要になるなど、電力系統に影響が出る。こうした設備投資が増えていけば、ゆくゆくは「日本の電気料金を押し上げる」(同)要因にもつながりかねない。
EVの台数が増えることで発生する電力需要のピークの波を平準化する取り組みとして、時間帯によってEVの充電料金を変動させる「ダイナミックプライシング」の導入に向けた検討が始まった。ピークが発生する夜や朝の充電料金を高く設定することで、電気代が安い昼間へと誘導する。
ダイナミックプライシングは、民間企業が一般家庭向けなどに展開するケースはあったが、電動車に応用するのは初めてとなる。
電気小売り事業者が顧客にエネルギーを供給する際、価格が変動する卸電力市場で電力を調達しても、売る時には一律の価格で提供する場合が多い。
これに対し、ダイナミックプライシングは卸市場価格に応じて電気代を変動させる仕組み。九州の場合は昼間の時間帯では卸電力市場でのキロワット時当たりの電気料金は0・01円と、日没の時間帯の同8~10円と比べて大きな価格差が生じる。料金変動性を適用すれば、利用者にとって電気代が安くなる可能性があり恩恵を受けられる。
経産省・資源エネルギー庁は来年度から実証を開始する計画で、電力事業者やEVを使う企業や個人を巻き込んで有効性を検証する。エネ庁・新エネルギーシステム課は「今はまだEVが30万台普及していないのでピークの山はそこまで発生していない」としつつも「10年くらいでEVが増えてくればさらに真剣に検討していかないといけない」と、電動車の活用を前提とした料金の仕組みづくりの重要性を認識する。
日刊自動車新聞11月21日掲載
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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主催者 | 日刊自動車新聞社まとめ |
対象者 | 自動車業界 |