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2019年11月12日

日刊自連載「交通安全・医理工連携の今 世界一への挑戦」(10)救急自動通報システム D―Call Netの現状と将来展望

我が国で救急ヘリを利用した患者搬送体制を確立する事を目的として1999年に設立された認定NPO法人救急ヘリ病院ネットワーク(HEM-Net)では、事故自動通報システム(Automatic Collision Notification=ACN)とドクターヘリの連携に早くから着目し、2004年の「第11回ITS世界会議愛知・名古屋」においてACNによるドクターヘリ出動のデモンストレーションを行った。

更に、10年の「第17回ITS世界会議(釜山)」においてACNミーティングを開催し、「第20回ITS世界会議東京2013」ではショーケース「近未来の救急システム」において、ACNの進化版である先進事故自動通報システム(Advanced Automatic Collision Notification=AACN)とドクターヘリの連携を実演した。

11年12月、実車並びにドクターヘリ実機を用いて、交通事故発生からAACNを通じてドクターヘリを起動する実証研究を茨城県つくば市の日本自動車研究所(JARI)において実施した。その結果、AACNとドクターヘリとの連携をより効果的なものとするためには研究をオールジャパンの体制で進展させることが必須と考え、12年度からは、関係省庁(内閣府、警察庁、国土交通省、厚生労働省、総務省消防庁、経済産業省)、大学、病院、研究機関、民間企業等から成る産官学医連携の「AACN救急医療支援サービス研究会」を組織して研究を進めた。

同研究会は、AACNの仕組みが広く一般に認知されるよう、その呼称(愛称)として「救急自動通報システム(D―Call Net)」を使用することとし、同研究会も「D―Call Net研究会」に改称した。D―Call Netとは、車両のエアバッグシステム内に搭載されているEDR(イベント・データ・レコーダ)のデータを活用し、衝突事故の方向、衝突時の速度変化(デルタV)、シートベルト装着の有無などの情報から乗員のケガの状況を推定(傷害予測)するとともに、車両情報、事故情報、乗員の傷害予測情報をドクターヘリ基地病院に通報するシステムである。

D―Call Netの「D」はドクターの「D」であり、交通事故に際して、いち早く医師を事故現場に出動させる仕組みを意味する。
試験運用を経て18年6月からD―Call Netの本格運用が開始され、19年10月現在、その協力病院は全国で59病院となった。

今年5月31日時点でD―Call Net通報事故事例は486件に達したが、死亡重症確率の閾値(いきち、境目となる値)を5%以上とした場合の傷害予測的中率は70%。予測値が実傷害よりも重傷であったオーバートリアージ率は30%、予測値が実傷害よりも軽傷であったアンダートリアージ率は0%であり、許容される範囲内であった。

今後の課題は交通事故死者の約半数を占める交通弱者(歩行者、自転車乗員)にも対応可能なD―Call Netの開発である。既に商品化され市場に投入されているドライブレコーダー型ACNのバージョンアップに大きな期待が寄せられていることから、HEM―Netでは「第2種D―Call Net検討WG(ワーキンググループ)」を立ち上げ、その実用化に向け検討を加速している。

また、ドクターヘリは日中のみの運航であり、夜間帯や悪天候時には飛行できない事から、ドクターヘリの夜間運航を可能とする体制整備を進めると共に、24時間、365日対応のドクターカーやラピッドカーがD―Call Netで起動する仕組みを構築する必要があると考えている。

日本交通科学学会 医療、工学、自動車メーカー、行政など幅広い分野からトップレベルの専門家・識者が参加。それらの知見を融合して安全な交通社会づくりを支援することをねらい半世紀以上、活動を展開している。

日刊自動車新聞11月9日掲載

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