2019年11月2日
日刊自連載「ニューワールド デジタル革命で変わるクルマ産業 第2部 破壊的創造に挑む」(8)マイカーの減少とビジネスチャンス
トヨタはeパレットでMaaSに先手を打つ
マイカーを除くすべての交通手段による移動を一つのサービスとして捉えるMaaS(サービスとしての移動)が発達した次世代の交通社会では、クルマは所有するものではなく共有で利用するものへと変化する。デロイトトーマツグループの廣瀬史郎シニアマネジャーは「自動車産業は今後、モノづくりからコトづくりの領域へと変化していく」と指摘するが、MaaSによって自動車メーカーが長年築き上げてきたモノづくりの強みは失われてしまうのだろうか。
三菱総合研究所の「2030年代のモビリティビジョン」では、18年現在、世界で650兆円ある自動車関連消費は50年には1500兆円にまで拡大し、そのうちMaaSは900兆円を占めると予測する。こうした未来の潮流を捉え、MaaS関連でいち早く存在感を示しているのは自動車関連企業ではなくIT系のベンチャー企業だ。
MaaSの成功事例として知られるのがフィンランドの首都ヘルシンキでサービスを展開するWhim(ウィム)だ。電車やバス、タクシーなど複数の移動手段を組み合わせて一括で決済できるサービスを提供する同サービスは、政府が主導し100以上の団体と組織が参画することでMaaSに必要なデータを開放、検索や決済などサービスを統合することを可能にした。
日本では民間企業が主体となりMaaS実現に向けた動きが出始めている。JR東日本はライバルである小田急電鉄や全日本空輸と提携に合意し、新たな移動サービスを模索する。一方、自動車メーカーはIT企業と手を組む。トヨタ自動車とソフトバンクというクルマとITの両巨人が協業するモネ・テクノロジーズでは、ホンダやいすゞ自動車などグループの枠を越えたオールジャパンで「日本の道路を一番知っているプラットフォーマーになる」(宮川潤一モネ社長兼CEO)考え。
モネは将来、トヨタの自動運転車「eパレット」を活用したサービスの展開を視野に入れる。20年の東京オリンピック/パラリンピックで選手の移動向けに先行導入するeパレットの自動運転走行は「実際にクルマを作ってきたリアルな世界」(豊田章男トヨタ社長)で培ってきた技術を盛り込む。トヨタはMaaS向けの車両をいち早く投入し、新サービス領域で先手を打つ。
MaaSの台頭によって、部品を供給してきたサプライヤーは「従来のOEMのビジネスはハードウエアの売り切りだったが、これからはクルマを通じてサービスを提供する産業が増えていく」(部品大手幹部)と期待を込める。デンソーは車載システムなどの「インカー」の領域にとどまらず、クラウドを通じて車両を遠隔操作するシステムなどの「アウトカー」サービスにも乗り出す方針を示す。自動車向けアンテナ部品大手のヨコオは、シェアリング車両向けにスマートフォンで開錠と施錠できるシステムを開発し、新たな需要開拓を目指す。
MaaSの発展によって自動車メーカーが危惧するのがマイカーの減少とクルマのコモディティ化だ。これに対し、トヨタの豊田社長は「eパレットはいわば〝馬車〟。一方で自ら所有する〝愛馬〟が共存する社会になる」と話し、未来も愛馬であるマイカー需要は存在すると断言する。
日刊自動車新聞10月30日掲載
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
---|---|
主催者 | 日刊自動車新聞社まとめ |
対象者 | 自動車業界 |