2019年10月30日
日刊自連載「ニューワールド デジタル革命で変わるクルマ産業」第2部 破壊的創造に挑む(6) デジタルは敵か味方か 製造現場で進む人との協業
開発や生産の現場でAIやロボットの導入が進む
「AI(人工知能)によって2030年には3%の雇用がなくなると言われている」と、ミシュラングループシニアアドバイザーで日産自動車独立社外取締役のベルナール・デルマス氏は話す。開発や生産の現場でも人間の役割をAIが代替すると危惧する声も少なくない。
一方でAIやIoT(モノのインターネット)、ロボットでの作業負担の軽減や生産性の向上に加え、設備の予知保全など人ではカバーできない領域をAIなどのデジタルツールが担うケースも出てきた。
総務省の「平成30年版情報通信白書」によると、AIによる自動化を期待する業務として3割以上の人が「特になし」と答えており、AIに対し懐疑的な人が一定数いた。野村総合研究所の調査では、日本の約半数の職業は機械に置き換えられると見ており「仕事を奪われる」という危機感が根底にあるようだ。
ただ日産の坂本秀行副社長は「人がやっている仕事がAIやロボットにスイッチするというより、人の負担をどう減らすかに注力すべき」と、あくまでデジタルは補完的役割を担うと見通す。実際に日産ではエンジンの製造や車体の溶接など負荷が大きい現場でロボットを活用する。
安川電機の久保田由美恵ロボット事業部担当部長も「AIやロボットが人に替わることはない。人が苦手なことは機械、機械が苦手なことは人と共存していく」と話す。
部品メーカーでは、生産の効率化や品質向上を目的にAIの活用が進んでいる。大型車のフレームなどを手掛けるプレス工業は、加工時の振動で金型折れを検知し、サーボ電流の波形をAI機能で検出してトラブルを未然に防いでいる。各工程をリアルタイムで監視し、稼働の平準化につなげる。澤藤電機はトラック用モーターラインに全15台のパソコンを設置。作業手順の指示や品質データを自動で記録し、工程の見える化を図った。データに基づいて機械を制御し「止まらない、不良を出さないラインを目指す」(木村毅参与)。
AIをベースとしたIoTで生産品質の改善に着手するダイキョーニシカワの北山文博本社工場長は「AIのシステムは導入するだけでは意味がない。AIにどのようなデータを与え、何を学習させるかが競争力向上の鍵となる。AIと作業者の融合を実現できるかどうかが重要」と、これまでの経験と実績の蓄積があってこそと説く。日清紡ブレーキは、過去20年分の開発データをAIに取り込み、原料の配合や調整、仕様の変更にデジタルを活用。開発の時間やコストを3割減らせる見込みだ。
タイヤメーカーでは、住友ゴム工業は生産工程で収集したデータで設備予知保全を行うほか、結果を開発部隊にフィードバックし、金型の設計の最適化などに生かす。
トーヨータイヤも生産設備にセンサーを取り付け、歩留まり率などを収集・解析する。制御が難しい(ゴムを重ねる)ジョイント部分の貼付精度をいかに高めるかに使用する。
各社とも作業ロスを減らすことと、将来の人手不足への先行投資でAIやロボットを活用する。ただフィブジャパンのジャンジャック・ラヴィーニュ社長が「知識をプロダクトにのせるだけでは意味がない。
(AIを活用するには)新しいテクノロジーと融合させることが不可欠」と話すように、今からAIの学習精度や経験値を磨いていかなければ宝の持ち腐れになることも考えられる。これまで培ってきたアナログの知見とデジタルの新領域をリミックスできるかが要になりそうだ。
日刊自動車新聞10月28日掲載
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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主催者 | 日刊自動車新聞社まとめ |
対象者 | 自動車業界 |