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2019年10月29日

日刊自連載「交通安全・医理工連携の今 世界一への挑戦」(8)休憩の取り方と安全

運転による疲労は身体的なものより精神的な影響が大きいと言われています。そのため、疲れていても気付きにくいことがあります。疲労が蓄積して過労状態となれば、覚醒レベルの低下した運転や最悪の場合、居眠り運転となり、大きな事故につながる可能性があります。ドライバーが頻繁に身体を動かしたり、あくびをしたり、話しかけても生返事をしたりするようなら疲れていると判断し、休憩を取るように促すことが良いでしょう。

疲労は休憩すれば改善しますが、業務運転などではどのように休憩を取るかはなかなか難しい問題です。トラック輸送の場合、工場への到達時間や途中の渋滞の関係で、休憩のタイミングが不規則になることがあります。また、タクシーでは、売り上げが少ないとか、客が多いので休まず走り続けるなど、その日の状況に流されて安定した休憩が取れない場合があります。

筆者らは、従業員数約800名のタクシー会社に所属するタクシードライバー44名(事故反復者21名、優良運転者23名)を対象に、彼らの休憩の取り方に違いがあるかを検討しました(藤井・島崎・石田、2012)。両群の年齢、運転経験に差はなく、調査時の1カ月間の勤務日数および一乗務当たりの営業収入にも差はなく、全員隔日勤務で乗務していました。

休憩の取り方については、タクシーに設置することが法令により義務づけられている運行記録計を利用し、休憩回数、合計休憩時間、最大走行時間および休憩一致度(毎乗務同じ時刻に同じ長さの休憩を取っているか)の4指標について分析しました。休憩の判断としては、車両が5分間以上停車した場合を休憩として扱いました。また、休憩一致度は15秒を1ブロックとして走行か休憩かを記録し、i日目とj日目の同じ時刻で休憩と走行の一致度を計算しました。

結果として、休憩回数と最大走行時間に差はなく、合計休憩時間は優良運転者がやや長い傾向でした。しかし、休憩一致度は優良運転者は事故反復者よりも有意に高いという結果でした。図1は休憩一致度が低いドライバーの運行記録例、図2は休憩一致度が高いドライバーの運行記録例を示しています。

ここから分かるように、優良運転者はほぼ決まった時間帯で休憩をしています。売り上げや客の多寡など、その日の状況に流されず、いつも一定のリズムで運転していることが見て取れます。結果として体調があまり変化しない、疲労が少ない、運転にメリハリが出る、という良い循環が生まれているのだろうと考えられます。
それに対して事故反復者は、乗務毎の休憩の取り方がバラバラで、全く統一が取れていません。休憩は疲れ切ってからとるより、その少し前にとるほうが疲労感は少なくなります。しかし、事故反復者のように、出勤日毎に異なる休憩パターンで運転していては、その日その日の状況に振り回され、安定した勤務が出来ないと思われます。
運行管理の面からも、ドライバーに単に休憩しなさいではなくて、統一の取れた休憩を取るように指導することが事故防止につながるのではないでしょうか。

石田 敏郎 早稲田大学名誉教授 日本交通科学学会理事 専門:交通心理学
日本交通科学学会 医療、工学、自動車メーカー、行政など幅広い分野からトップレベルの専門家・識者が参加。それらの知見を融合して安全な交通社会づくりを支援することをねらい半世紀以上、活動を展開している。

日刊自動車新聞10月26日掲載

開催日 2019年10月26日
カテゴリー 白書・意見書・刊行物
主催者

日刊自動車新聞社

対象者 一般,自動車業界