会員向けクルマ
biz

INFORMATIONクルマの情報館

自動車産業インフォメーション

2019年10月24日

大学研究室、国家プロジェクトで存在感 最先端研究が次世代車づくりをリード

車体軽量化に取り組むNCVプロジェクトの成果をコンセプトカーにまとめ東京モーターショーで発信

大学研究室が、自動運転や軽量素材の実用化に向けた国家プロジェクトで存在感を増している。内閣府が主導する自動運転車の実証実験では今秋、インフラ協調型システムの環境整備に欠かせないセンサーデータの収集・検証を金沢大学が受託。

また、京都大学が代表事業機関を務める環境省の車体軽量化プロジェクトは、植物由来の軽量素材「セルロースナノファイバー(CNF)」を活用したコンセプトカーを製作、24日開幕する「第46回東京モーターショー2019」で公開する。アカデミア(学)の最先端の研究成果が次世代車づくりをどのようにリードするかが注目される。(編集委員・有馬康晴、長谷部博史)

金沢大は、内閣府などが「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期『自動運転(システムとサービスの拡張)』」で10月から2021年3月末まで展開する「東京臨海部実証実験」で、将来の自動運転インフラづくりの基盤となるデータ収集を任された。

この実証実験は都内の臨海副都心エリアおよび羽田空港エリア、そして両エリアを結ぶ首都高速道路で実施。自動運転の公道実験としては1年半という長めの期間を設けるとともに、国内外の自動車メーカー、サプライヤー、ベンチャー、大学など28機関が約100台の走行を計画する大規模なもの。「レベル2~4」に相当する自動運転車の走行を見込む。

実験では、信号機から「青信号があと何秒で黄色に変わる」といった情報を提供し車両の走行制御に反映すること、首都高料金所から本線合流を支援する情報、道路に埋め込んだ磁気マーカーで路線バスの自動運転を支援する技術などを試す。いずれも自動運転では自律制御が難しい走行状況。その不得意をカバーするには、どのようなインフラ情報が効果的か調べる。

SIP自動運転を統括する葛巻清吾プログラムディレクターは「金沢大は他の参加者と位置付けが違う。技術の協調領域と競争領域は密接で紙一重の部分があるので、協調領域の技術標準づくりでは、競争領域の情報もある程度開示していかなければうまくいかない。そこで車両の信号に基づいたデータを出してもらい、そのデータをベースラインとして協調領域、インフラの有効性を議論していく。アカデミアの知見を積極的に入れていきたい」と、金沢大に事業委託したねらいを述べた。

金沢大の自動運転ユニットリーダーの菅沼直樹教授は「これまで完全自律の自動運転を研究していたので、信号機の情報を組み合わせるところが新しい。交差点に進入する直前で

アカデミア(学)の最先端の研究成果が次世代車づくりをどのようにリードするかが注目される。(編集委員・有馬康晴、長谷部博史) 金沢大は、内閣府などが「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期『自動運転(システムとサービスの拡張)』」で10月から2021年3月末まで展開する「東京臨海部実証実験」で、将来の自動運転インフラづくりの基盤となるデータ収集を任された。

さらに大学勢では埼玉工業大学がマイクロバスを改造した自動運転車で参加。車両を開発した渡部大志教授は「専用レーンを走行するバスに合わせて青信号の時間を伸ばし定時運行を支援する『ART』や無線で送られる信号情報が逆光時にどれだけ有効かなどを試し、効果を報告したい。今回のような多数の車両が一度に参加しデータ収集できる実験環境はなかなかないので、国の今後の指針づくりに役立ちたい。学生が最先端技術に触れる機会になるので、人材づくりも実験の醍醐味になる」と将来の技術者育成も実験成果にしたいと意欲を示した。

一方、鋼鉄の5分の1の比重で5倍の強度を持つCNFを活用して車体軽量化を目指す環境省の「NCV(ナノセルロースヴィークル)プロジェクト」は17日、都内で成果発表と東京モーターショーの出展説明を実施した。昨年6月の成果発表でモーターショー出展を表明しており、その後1年強をかけてコンセプト車完成に漕ぎつけた。

CNFを100%使用したルーフレールやエンジンカバーを製作したほか、さまざまな樹脂にCNFを10~50%混ぜてルーフパネルやバックドアガラスなどを作った。これらによって鋼材を使用した場合に対し10%以上、軽量化できた。

産学官22機関が参加する同プロジェクトのリーダーを務める京都大学の臼杵有光特任教授はCNFの実用化について「5合目あたりまで登ってきたところ。スタート時は2合目だった。材料も成型技術も切磋琢磨してかなりのところまできた。あとはコストや量産性、品質安定性、耐久性が課題だ。早ければ3、4年で世の中に出てくる」と手ごたえを述べた。

さらにサブリーダーの京大の矢野浩之教授は「このプロジェクトは材料の完成度が低い中で車を作り出したが、完成度が高まったところから使うというよりは、できるだけ工夫して少しでも使っていくようにしたほうがいい。使う量が増えれば生産者側もスケールアップしてコストが下がる。車もいろいろなパーツがあるから、そんなに先ではない」と、二酸化炭素の排出削減に向けてCNFを積極的に活用し車体重量を削減するべきだと提言した。

日刊自動車新聞10月21日掲載

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
主催者

日刊自動車新聞社まとめ

対象者 キッズ・小学生,中高生,大学・専門学校,一般,自動車業界