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2019年10月23日

日刊自連載「交通安全・医理工連携の今 世界一への挑戦」(7)交通事故とジェット機搬送の展望

北海道で長距離搬送に運航された小型ジェット機(メディカルウイング)

北海道は日本の国土面積の約22%を占め、へき地は全国で一番多く、五つの離島を有している。特に人口減少に伴って医療の偏在や地域格差が増々広がっており、医療の平等の観点から、高度医療を受けるには、主に札幌へ搬送されることが多い。

救急車に加え、現在4機あるドクターヘリ(札幌、旭川、釧路、函館)は半径100Km(他府県は主に50Km)の範囲で運航されているが、これでも広大な全域をカバー出来ず、長距離搬送に固定翼機(ジェット機、セスナ機)の導入が期待されていた。

北海道では2010年より小型ジェット機(メディカルウイング)を使用する固定翼機搬送を実施する「北海道航空医療ネットワーク研究会(HAMN)」が発足し、民間による浄財で1カ月の運航を行った。その実績から、北海道地域医療再生計画事業で「11年11月より3年間のうち12カ月間の運航(冬期間を含む)」を実施することが出来た。

施設間での重症患者の搬送のニーズは多く、小児・周産期の患者の搬送は37%と高かった。そしてドクターヘリをはじめとして自衛隊や海上保安庁も含む他の航空医療搬送機関との連携が重要だと言うことが再認識された。
冬期間の積雪時の運航の調整問題では、民間航空機と同じように飛行出来るように、実証経験を踏まえて、国の交通安全局とも協議した。
7年経った17年7月30日より国庫補助事業の「へき地保健医療対策」で、日本で初めての継続的固定翼機の運航がスタートし、19年8月末までに60例の施設間搬送が行われた。

さて今後の展望として、最重症の交通事故患者であるが、自動車事故対策機構(NASVA)は「自動車事故により脳損傷を受け重度の後遺障害が残り、治療と常時介護を必要とする患者を専門に治療介護等を行い最大限の機能回復を図ること」を目的として、療護施設や委託病床を運営している。北海道では札幌の中村記念病院が07年より委託を受けて、最大3年間の入院において、適切な治療・看護・リハビリ等を行い、意識障害の改善、運動機能が回復できるよう奮闘している。将来の展望として遠方の稚内など地方病院から小型ジェット機での搬送も期待したい。

また、中央社会保険医療協議会は交通事故などの脊髄損傷に対する初の再生医療として、札幌医大が開発し薬事承認されていた治療用幹細胞「ステミラック注」に、公的医療保険を適用することを承認した。受傷から31日以内の患者の骨髄液から幹細胞を取り出して増殖させる細胞医療で、札幌医大と医療器具大手「ニプロ」が共同開発し、拒絶反応はない。18年12月に厚労省から最大7年間の条件付きで製造販売の承認を得て、現在全国からの小型ジェット機による搬送が9月18日現在10例行われている。

今後とも重症交通事故患者の病院間搬送に対し、固定翼機搬送を全国に普及する努力を推し進めていきたい。
日本交通科学学会 医療、工学、自動車メーカー、行政など幅広い分野からトップレベルの専門家・識者が参加。それらの知見を融合して安全な交通社会づくりを支援することをねらい半世紀以上、活動を展開している。

日刊自動車新聞10月19日掲載

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
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開催地 北海道
対象者 一般,自動車業界