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自動車産業インフォメーション

2019年10月16日

交通事故被害者救済事業の充実に向けての課題 未返済の自賠責保険料6千億円早期繰り戻しを

自動車安全技術の高まりなどから交通事故は減少傾向にあるものの、重度後障害者数は横ばいにとどまっており、交通事故の被害者救済のための事業を安定的、継続的に実施することが重要だとする「交通事故被害者救済事業の充実に向けての課題」報道説明会が4日、東京都港区のくるまプラザで開かれた。

自動車損害賠償保障制度を考える会(座長・福田弥夫日本大学危機管理学部長)の主催で、救済のための原資となる一般会計に繰り入れられた自賠責保険料の積立金約6千億円を、自動車安全特別会計へ繰り戻すよう強く働きかけていくとした。同会は2020年度の予算案策定に向け、11月にも財務大臣や国交大臣らに陳情活動を行い実現に結び付けていく考えだ。

考える会は、自動車安全特別会計に積み立てた保険料が国の一般会計に貸し出されたものの、未返済の状況を受け2010年に発足。未だ6千億円が返済されていない状況を受け17年に活動を再開し、18年度予算で15年ぶりの返済となる23億円の繰り戻しを実現した。

19年度は37億円の繰り戻しにつなげた。20年度についても12月の予算案決定を視野に、限られた時間の中で繰り戻しを求め関係方面へ強く働きかけている。説明会で自動車事故対策機構(NASVA)の濱隆司理事長は、交通事故による死者数は減少しているものの「重度後遺障害者数は1998年以降ほぼ横ばいで推移している」とした。

こうしたなか、重度後遺障害者受け入れる療護施設は、療護センターが4カ所・230床、委託病床が6カ所・70床がある。センターではワンフロア病棟システムの採用などにより効果的な治療と看護を実現しているという。

千葉療護センターの小林茂樹センター長は、障害者の家族を含めた支援体制や治療方法の進歩などを説明したうえで、患者ニーズの多様化や短期入院希望者の増加などを受け、大規模改修の必要性を訴えた。

全国遷延性意識障害者・家族の会の桑山雄次代表は「自動車事故で家族が遷延性意識障害者になって」と題して講演し、「遷延性意識障害というのはいわゆる植物状態を指します」とした。当事者だけでなく、家族が置かれる状況や人手不足の中での看護師やヘルパー不足の状況を訴えた。家族を含め厳しい状況を踏まえた被害者救済のうえで、自動車安全特別会計への繰り戻しについて「2年間続いた繰り戻しの流れを変えてはいけない」と強く訴えた。

脳損傷による遷延性意識障がい者と家族の会「わかば」の横山恒代表(全国遷延性意識障害者・家族の会副代表)は、自身が高齢化するなかで「親なきあとはどうなるの?」と題し、交通事故による遷延性意識障がい患者と家族の不安を伝えた。障がい当事者の発症時の年齢を大別した場合、頭部外傷の場合は30歳未満が68%、病気などでは30歳以上が78%とほぼ逆数の構成となっているとした。交通事故などは比較的若年に受傷者が多く、病気などは比較的中高年に発症者が多いためとしている。

こうした背景をうけて交通事故による障がい当事者の介護年数は長期化している。しかも、同会会員の主たる介護者の構成比は、頭部外傷の場合は親が子の介護しているケースが73%を占めるという。それだけに、介護の主流を占める親なきあともいかに安心して暮らしていくのか。終の棲家となる交通事故被害者対象の重度障害者ホームの必要性を訴えた。

国土交通省自動車局の江原一太朗保障制度参事官は国交省の被害者救済事業の概要を説明した。このなかで、療護施設について19年度に小規模委託病床を愛媛県・高知県のいずれか一カ所に設置する予定とした。

20年度には一貫症例研究型委託病床を予算要求するとした。自動車損害賠償保障制度についても、一般会計の繰入金の繰り入れ・繰り戻し状況について、繰り戻しについて財務大臣と国土交通大臣が取り交わした覚書本文も含めて説明した。

考える会では、今回の報道説明会を契機に、被害者救済のひとつとなる自動車安全特別会計から一般会計に繰り入れた繰り入れ金約6千億円の繰り戻しについて、財務大臣や国交大臣への陳情をはじめ、関係方面への働きかけによって実現していく方針だ。新たな治療法の開発や、介護者の高齢化など被害者を取り巻く環境はその家族を含めて大きく変化しており、支援の一助となる自動車安全特別会計の拡充はかかせない状況だ。流れを途絶えさせることなく、3年連続、さらには完全返済を実現するためにも、まずは20年度の予算案での実現に向けて残された時間で最大限の努力をしていくことにしている。

日刊自動車新聞10月12日掲載

開催日 2019年10月4日
カテゴリー 会議・審議会・委員会,社会貢献
主催者

自動車損害賠償保障制度を考える会

開催地 日本自動車会館くるまプラザ(東京都港区芝大門)
対象者 一般,自動車業界