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2019年10月8日

日刊自連載「交通安全・医理工連携の今 世界一への挑戦」☆5 /一般社団法人日本交通科学学会副会長、玉川大学教授・阿久津 正大/人間工学の視点から安全で利便な交通社

筆者は「人間工学」を専門にしています。「人間工学」は人間を中心におき、人間とモノ(ハードとソフト)との親和性を追求する学問です。人間の諸特性に適合するようにハードやソフトの具現化を目指します。筆者が取り組んできた鉄道交通における人間工学研究の一端を紹介します。

都市部での通勤通学の主要な交通手段は列車。列車の利用が集中する通勤通学の時間帯(いわゆるラッシュ時)では、定時運行の遅れが頻繁に生じています。ラッシュ時の列車の定時運行の遅れをいかになくすか。都市部鉄道各社にとって、また列車利用者からも解決したい重要課題です。この課題の解決に人間工学の視点からアプローチしました。

ラッシュ時の列車の遅延は大規模教育機関(大学など)に隣接する駅でよく起こります。その原因が利用客の乗降行動、つまり学生や生徒の列車利用が一部の車両に集中し、乗降に時間がかかるために、列車の遅れを引き起こしているのではないか…と。

そこで大規模教育機関に隣接する駅で、朝夕のラッシュ時の利用者の列車乗降行動と乗降意識を調査しました。手始めに平常授業日の朝夕のラッシュ時に到着する上下線の計114本の列車について、乗降に最も時間がかかった車両・ドア口を観測。上下線ともにホームの階段(改札)に近いドア口付近に利用が集中していることがわかりました(図1)。

 図1
その原因を探るため、朝夕のラッシュ時に到着する計255本の列車について、乗降に最も時間がかかった車両・ドア口における乗降時間や乗降人数を調査。朝夕のラッシュ時に運行するすべての列車の停車時間が、駅ごとに決められている停車時間を大きく超えており、中には50秒以上停車する列車も。階段付近の1ドア口あたり乗降平均人数は20~25人。35人以上が乗降するドア口も見られました。

まさに「階段付近の車両、みんなで乗れば怖くない」のあり様。学生や生徒の列車利用が階段付近に集中することで生じる列車の遅れが蓄積し、「定時運行」の遅れに繋がっていたのです。

ホームに降りてからあまり動かずに列車待ちしているグループが目につきます。グループでは、分散乗車を考えずに階段付近の車両に乗車する傾向が強いのではないか?。そのことを検証するために、平常授業日の夕方のラッシュ時に、計240の個人・グループ(うちグループが217)のホームにおける乗車行動について、こっそり後をつけて調べました。

個人やグループがどの車両・ドア口に乗車するのか。その乗車位置に決めた理由や、いつもと同じ乗車位置なのか、グループメンバーから分散乗車を促す発言があったのかなどについて、列車待ちの間に問診しました。

ホームに降りてから乗車位置までの移動距離や移動時間は1人の場合は長く、乗車位置はホームに広く分散していました。一方、グループの場合はホームでの移動距離や移動時間は短く、階段付近に集中していました(図2)。

 図2

日刊自動車新聞10月5日掲載

開催日 2019年10月5日
カテゴリー 交通安全,白書・意見書・刊行物
主催者

日刊自動車新聞社

対象者 一般,自動車業界
リンクサイト

日本交通科学学会ホームページ http://jcts.umin.ne.jp/