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2019年10月2日

連載「交通安全・医理工連携の今 世界一への挑戦」(4)東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科教授、(一社)日本交通科学学会評議員 渡邉 修

脳卒中とは、①脳の血管が閉塞する脳梗塞、②脳血管から出血する脳出血、③血管にできた動脈瘤が破裂するくも膜下出血の3疾患を言います。

これらのなかで、脳梗塞は、国民の4~5人に1人が発症すると言われる発症頻度の高い疾患です。脳にこれらの障害が生じると、運動障害(手足の麻痺など)や認知障害(注意障害や記憶障害、空間認識の障害、失語症など)によって、あたりまえのようにできていた自動車運転が、安全にできなくなることがよくあります。

そこで、病気後も、安全に運転ができるかどうかを、公安委員会が、かかりつけの主治医に診断書として求めてきます。本稿では、そのような場合の当院の自動車運転評価の手順をご紹介します。

脳卒中後に自動車運転が再開できるのかという運転能力の評価は、実車前評価と実車評価があります(図)。


1.実車前評価は、病院や施設内で施行される医学的評価(病歴、診察、視覚検査、画像検査)と神経心理学的評価、ドライビングシミュレーターによる運転評価を指します。

すなわち、まず、安全運転のための必要条件(医学的に安定し 、日常生活が自立し、感情面が安定していること)が備わっていることを確認し、次いで、脳CTやMRI所見から、左右の大脳半球、特に両側前頭葉、右頭頂葉に損傷があったとしても、限局し小病変であることを確認します。ついで、知能や記憶、空間認知を測定する神経心理学的検査を行い、基準値を概ね下回ってないことを確認します。

2.実車評価は、前述の実車前評価で一定の基準を満たした場合に、当院と連携している教習所で行います。教習所では、助手席に運転能力評価の資格を有する技能検定員が座り、助手席でもブレーキ操作が可能な車を使って、実車運転の能力評価を行います。技能検定員は、あらかじめ決められたチェックシートに基づき、運転中の技能評価を行います。自動車は、障害に合わせてアクセル、ブレーキの位置を改造します。右片麻痺であれば、アクセルは左側になります。そして、最終的に、運転が可能なのか、を判断してもらいます。

教習所において、実車運転が可能と判断されても、脳卒中者が運転を再開するときは、①混雑時間帯を避ける②運転時間を短縮する③こまめに休息をとる④夜間および天候の悪い時は運転しない⑤速度を制限する⑥同乗者を置く⑦運転中は話をしない、などの配慮をするようにします。

今後、さらに実車評価の必要性は増すことが予想されます。運転支援を行う医療機関は、連携が可能な教習所との話し合いを深めて、良好な役割分担、責任の所在を明確にして協働していくことが望ましいでしょう。

日本交通科学学会 医療、工学、自動車メーカー、行政など幅広い分野からトップレベルの専門家・識者が参加。それらの知見を融合して安全な交通社会づくりを支援することをねらい半世紀以上、活動を展開している。

東京慈恵会医科大学附属第三病院リハビリテーション科教授、(一社)日本交通科学学会評議員 渡邉 修氏

日刊自動車新聞9月28日掲載

 

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
主催者

日刊自動車新聞社

開催地 東京
対象者 一般,自動車業界