2019年9月6日
想定以上の拡大 中国の中古車輸出
今年5月に解禁された中国の中古車輸出が、当初の想定を上回るペースで進んでいる。解禁から2カ月後の7月、広州市と天津市からカンボジアやナイジェリアなどに向けて相次いで中古車が輸出された。すでに数千台規模で受注する事業者もあり、中古車流通市場に予想以上に強いインパクトを与えている。
米中通商摩擦の影響もあって中国経済に暗雲が立ち込める中、中国政府は現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」沿線の新興国などへの中古車輸出を後押しすることで、低迷する新車市場の活性化につなげたい考え。品質や価格競争力などで仕向け国からの評価を得られるかが、今後の展開に大きく影響しそうだ。
現地の報道によると、中国から中古車輸出が最初に行われたのは、7月17日。広州市からカンボジアに向けて9台の中古車が輸出された。中古車販売などを手がける広東好車控股(広州市)が受注したもので、金額ベースでは日本円で約1720万円。すでにナイジェリアやミャンマー、ロシアなどからも合わせて6千台を受注しているとされ、年内にも3千台を輸出する見通しだ。
さらにその翌週には、天津市から地元企業の中北汽車産業がナイジェリアに向けて中古商用車の輸出をスタート。60台を船積みした。同社は、2年以内に年1万台まで拡大したい考えで、ナイジェリアにアフターサービス拠点も設けるなど、海外での販売体制を着々と整備している。
5月の解禁決定から短期間で中古車輸出が始まったことについて、日本国内の輸出関係者からは驚きの声も上がっている。自動車流通業のコンサルタントを手がけ、中古車輸出について詳しい中尾聡ソウイング社長によると「解決の糸口が見えない米中通商摩擦の影響が大きい。減少する対米輸出の穴埋めを急いでいる」と指摘。中国の商務部関係筋は「国内の年間中古車発生量は約1400万台ある。これだけポテンシャルのある輸出商材は見逃せない」と鼻息を荒げているという。
さらに中国経済の低迷で新車販売が不振にあえぐ中、落ち込みに歯止めをかけようする中国政府の意向も大きく働いている。2019年1~6月の国内新車販売台数は、前年同期比12・4%減の1232万3千台と失速。7月も前年同月比4・3%減の180万8千台と13カ月連続のマイナスとなり、新車市場は依然として厳しい局面が続いている。こうした中、新興国に中古車を輸出することで中国国内の流通を活性化し、新車の代替需要の喚起につなげたいと考えている。
実際、中古車輸出の解禁が検討されていた18年の段階では、中古車輸出を許可する地域として北京、青島、広州、天津の4市に限定する方向だった。しかし今年5月には、新たに上海、台州、濟寧、成都、西安、厦門を追加し、計10市に拡大。企業からの輸出申請に対しても、早い地域では1カ月以内に認可を出すなど、行政機関も後押しする形で7月から輸出が始まった。
今後、中国の中古車輸出が拡大するか否かは、中国側がグローバル市場で価格競争力と信頼性の低さを改善できるかが焦点の一つ。中国国内の中古車流通インフラは現時点でぜい弱なため、市場での競争が働かず、取引価格は高止まりしている状況だ。また品質のイメージも良いとは言えず、輸出拡大への足かせになる可能性が高い。中尾氏によると「現在、中古車オークションの普及が急ピッチで進んでおり、その成果がどこまで発揮されるのかがカギになる。さらに政府が輸出前検査会社を発足する動きもあり、仕向け先各国がどのような評価を下すかが大きなポイントだ」としている。
世界一の自動車市場中国。足元ではITを活用した新たな中古車流通サービスも次々と登場し、気軽に中古車を選び、購入できる環境が整ってきた。新車には手が届かない層の需要を取り込み始めており、自動車流通市場全体での中古車の存在感は日増しに高まっている。こうした中、落ち込む新車販売の回復に向け、これまで国内に滞留してきた中古車を外に吐き出そうとする動きは今後も続くものとみられる。
さらに中国国内で生産されたものでも、世界各地で引き合いが強い日系メーカーの左ハンドル車は、左ハンドル国の需要を取り込む可能性があり、今後の動向が注目される。
日刊自動車新聞9月3日掲載
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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開催地 | 中国 |
対象者 | 自動車業界 |