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2018年11月7日

MaaSで社会的課題解決へ、自動車の活用法模索する企業

コネクテッドカーや自動運転車などを活用した新たなサービス「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」。自動車メーカーや交通事業者、IT企業、通信事業者をはじめ、多くの企業が参入しており、事業化に向けた検証を進めている。三菱UFJ銀行と楽天もその一部。それぞれが考える社会的課題の解決を目指し、自動車の活用方法を模索している。

◆交通弱者向けに
三菱UFJ銀行と子会社のジャパンデジタルデザイン(上原高志社長、東京都中央区)は、日産自動車「NV200バネット」をベースにしたATM搭載車「ATM MINI」を開発した。車両のリアゲートを開けるとATMが搭載されており、キャッシュカードで現金を引き出すことができる。
東日本大震災以降、銀行や信用金庫はBCP(事業継続計画)を目的にATM車の導入を進めてきた。ただ、従来のATM車はトラックベースだったため、導入コストが高く、利用シーンも限定されていた。ATM MINIでは、沖電気工業(OKI)の一般車両用ATMを採用することにより、トラックベースの車両と比べて約5分の1のコストでATM車を導入。2020年以降をめどに自動運転車を使用した交通弱者向けのサービスとして提供することを検討している。

ただ、ATM車を広く活用するには「ビジネスモデルの構築」が重要な課題となる。そこで同行は当面、走るATMを音楽イベントや花火大会などで活用し、来場者の利便性向上、物販の売り上げ増につながるサービスとして提案する。ユーザーの取引手数料に加え、主催者側に付加価値としてサービス料を徴収するモデルだ。年内をめどに関東圏を中心に実証実験を進めていく。

◆過疎地の住民にも
通販サイト大手の楽天が実証を進めるのは、「走る試着室」だ。同社は日産自動車や会津大学などと共同で「リモートファッションコミュニケーションビークル」を開発した。楽天の「遠隔スタリングシステム」を搭載した日産の電気自動車「e―NV200」を活用し、過疎地の住民や交通弱者など実店舗を利用しにくいユーザーのためのサービスを提供する。
車両後部にプロジェクターを設置した「スタイリングルーム」にユーザーが入り、遠隔地にいるスタイリストがそれぞれに似合ったファッションを提案する。商品を気に入れば、スクリーンに表示されるQRコードを読み込むことにより、仮想モール「楽天市場」で商品を購入できる。
楽天が同サービスの実用化を目指すのは「当社の『楽天市場』には人と人とのつながりがなく、ファッション離れに結びつく側面がある」(企画担当者)ためだ。アパレルショップが充実していない地域の住民にとってeコマースの役割は大きい。ただ、実店舗のような店員とのコミュニケーションはない。このサービスを通じて「ファッションを楽しむ人を増やす」(同)狙いだ。

同プロジェクトを推進する会津大学の藤井靖史准教授は、「過疎地の交通弱者向けにサービスを提供するには“人肌”を残すことが重要だ」という。人工知能(AI)による遠隔接客の自動化や自動運転車両を活用すればサービスの生産性は向上する。ただ、「何でも合理的に機械がやってくれることが人間の幸せという訳ではない」(藤井准教授)とし、会津大学は日産や楽天など協力企業とともに、社会受容性のあるMaaSの形を模索していく考えだ。

日刊自動車新聞11月5日掲載

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
主催者

日刊自動車新聞社調査

対象者 自動車業界