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2018年10月3日

自賠制度を考える会シンポジウム、一般会計に繰り入れられた積立金の返済増額を

自動車損害賠償保障制度を考える会(座長=福田弥夫日本大学危機管理学部長)は、「自賠制度を考える会シンポジウム」を東京都港区のくるまプラザで開催した。自動車安全特別会計から一般会計に繰り入れられた積立金の返済について、自賠制度の識者や被害者らがパネルディスカッションを行ってその必要性を訴えた。

■増え続ける重度後遺障害者
交通事故による昨年の死亡者数が統計開始以来最少の3694人となる一方、事故による重度の後遺症を負う被害者の数は横ばいの状態が続いている。年間に約1700人が重度の後遺症を負っており、重度後遺障害者の累積数は年々増えている。被害者救済のための負担が増大しているのが状態だ。
しかし、被害者救済対策のための財源である自動車安全特別会計から1994、95年度に一般会計へ繰り入れられた1兆2千億円のうち6159億円がいまだ返済されずにいる。本年度の予算で15年ぶりに23億2千万円が繰り戻され、返済期限が18年度から20年度に延長された。自賠制度を考える会は来年度予算での更なる繰り戻し額の増額を強く求めている。
シンポジウムでは、全国遷延性意識障害者・家族の会代表の桑山雄次氏と日本頚髄損傷Life Net理事長の徳政宏一氏が、事故被害者の現状を訴えた。桑山氏は、息子が自動車事故に遭い重度後障害者に、徳政氏は自身が事故により重度後遺障害者となった。

■当事者と家族が背負う思い負担
桑山氏の次男は、小学校2年生だった95年6月、スピード違反の車にはねられ、頭を打ち頭蓋骨を骨折した。脳損傷により自力移動や接触ができない最重度の後遺患者である遷延性意識障害者になった。いわゆる「植物状態」だ。その後、頭蓋骨整形術などの手術を受け、地元の小学校に通い続けた。徐々に表情に笑顔が出るようになり、2001年には地元の小学校を卒業することができた。事故から20年ほど経った現在、回復の兆候が見られているという。「指談(ゆびだん)」という、指によるコミュニケーションをとることができる。父親である桑山氏の似顔絵や好きな漫画の登場人物の絵を描くまでになったという。
遷延性意識障害者・家族の会の代表を務める桑山氏は、「事故に遭い重度の障害者になってしまうと、当事者はもちろん家族の生活もボロボロに破壊されてしまう」現状を訴える。病院の見舞いや付き添いが忙しく、仕事や睡眠、娯楽に割く時間が無くなってしまうためだ。夜間にヘルパーが来れないなどの問題もある。医療だけでなく、裁判にかかる負担もある。第三者行為の事故の場合は、刑事訴訟や民事賠償請求のための資料作りなどの時間と労力がかかるという。医療や介護、裁判などさまざまな負担が重なり、被害者や彼らを介護する両親が離婚するケースも少なくないという。

■障害者を取り巻く厳しい現実
徳政氏は、自動車事故に遭い頚髄を損傷し車いす生活を送ることになった。足が動かないだけでなく、排泄も自分の意志で行えない。発汗もできず、霧吹きで自身の体に水をかける。徳政氏は、意思通りに動かない身体になったことで、自暴自棄になったという。
頚髄損傷リハビリは介護施設に敬遠されがちで、自立訓練を行える施設は全国に10カ所程度しかない。また、自立生活を始めても、先が見えない状況という。仕事をする際も、排泄障害などにより数時間おきに介護措置を行う必要があり、仕事が進まないという。思い通りの就労ができず、収入も限定される中で生きていると指摘する。

■被害者の回復を後押しするために
自動車安全特別会計への繰り戻しを通じて2人が求めるのは、十分な医療サービスや介護の提供だ。徳政氏は被害者として、桑山氏は被害者の家族として、生活していく上で充実した医療・介護サービスが不可欠だと訴える。桑山氏は、事故から20年以上経った現在、次男が指談をできるようになったことから、「再生医療ですべてが解決するわけではないが、期待をしている」と重度後遺障害者への継続的な医療に前向きな姿勢を示している。
自動車事故対策機構(NASVA)の調査では、意識障害となってから3カ月が経っていても、26%の人が回復したという結果が出たという。脳死とは異なり、意識障害から回復する人は少なくない。徳政氏は、介護サービスの充実によって重度後遺障害者の生活が変わると主張した。

事故被害者救済の現状については、日本自動車会議所保険委員長の秋田進氏が紹介した。徳政氏が施設数の少なさを指摘した重度後遺障害者のための施設は、現在日本に9カ所しかないという。療護センター4カ所、療護施設機能委託病棟が5カ所と施設数が少ないため、介護者の自宅から遠いケースが多い。
被害者団体からは、小規模病床を増やすことで自宅から近い場所での病院設立を求める要望がある。今年度予算では、病床の空白地帯である富山・石川・長野の3県から小規模委託病床1カ所を選定中だという。今後も更に拡大していく計画だと述べた。

日刊自動車新聞9月29日掲載

開催日 2018年9月10日
カテゴリー キャンペーン・表彰・記念日,展示会・講演会
主催者

自動車損害賠償保障制度を考える会

開催地 くるまプラザ(東京都港区芝大門 日本自動車会館)
対象者 一般,自動車業界