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2018年8月29日

不適切修理に賠償金35億円、日本の車体整備業界も要注意

自動車の修理をめぐる米国での賠償命令が日本の車体整備業界で話題になっている。

ルーフの修理にメーカー指定の溶接ではなく接着剤を使用した結果、衝突事故時に火災が発生し、乗員が大怪我をしたとして、車体整備工場側が3150万ドル(約34億8千万円)の賠償を命じられたものだ。日本では米国のような巨額の賠償命令が下る可能性は低いものの、メーカー指定の要件を順守していないケースは少なからず存在すると見られ、近い将来、対岸の火事と傍観していられなくなるかもしれない。

発端となった事故は2013年秋に米国で起きた。ホンダ「フィット」とトヨタ自動車のピックアップトラック「タンドラ」が衝突。フィットは大破後に炎上し、ドライバーと同乗者は車内に閉じ込められて大やけどを負った。

フィットは中古車として購入したもので、前のオーナーが雹(ひょう)の被害に遭い、ルーフ交換を行っていたことが判明。しかも、ホンダが指定するスポット溶接ではなく、接着剤で交換したルーフを固定していた。また、フィットオーナーが契約していた保険会社が車体整備工場に対し、修理費用を浮かすために接着材の使用を強要したという。被害者の代理人を務めた弁護士は「(保険会社は)自動車利用者の安全よりも利益を優先するよう修理工場に強要した」と語った。

車体整備工場は「(接着剤による)パネル接合方法は(溶接と)同等の効果を持つと考えられる。修理工場はホンダのエンジニアの先を行っていた」と主張したが、メーカー指定の修理手順を順守する「I―CAR」の認定工場でもあり、メーカーが要請する溶接をしなかったことには変わりない。結果として陪審員団は昨秋、不適切な修理と乗員被害の因果関係を認め、車体整備工場に賠償金の支払いを命じた。

30億円を超える賠償金には、米国で認められている懲罰的な損害賠償分が含まれるとみられる。懲罰的損害賠償が認められず、精神的な損害を慰謝料として裁判所が算定する日本では、これだけ巨額な賠償命令が出る可能性は極めて低い。ただ、修理難度の高い超高張力鋼板の採用が広がり、先進安全技術のエーミング(機能調整)作業も求められる今、整備や板金塗装工場はメーカーが指定する工具や修理手順を順守し、作業記録を残さないと、思わぬ紛争に巻き込まれかねない。

日刊自動車新聞8月24日掲載

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
主催者

日刊自動車新聞社調査

開催地 米国
対象者 自動車業界