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2024年5月10日

「イノベーションが未来を拓く」日本自動車会議所・内山田会長講演から(下)

「プリウス」の普及を引っ張ったのは結局お客さま。アカデミー賞のレッドカーペットにスターたちが、プリウスで現われた。お客さまが商品をしっかりと認め、後押しをしてくださったのが大きかった。

プリウスの前後で変わったのは、環境性能が商品価値になったということ。トヨタ自動車はこれまで累計で2300万台の電動車を出し、二酸化炭素(CO2)排出量削減に大きく寄与した。新たな需要につながり、今までにない技術として、サプライヤーの開発も促し、強みを磨くことを通じてコストも下がった。

われわれの社会は大変多くの課題を抱えている。異常気象や平和など多数の課題は、一つひとつが独立しているわけではなく、お互いに絡み合っている複雑なものだ。これをイノベーションを通じて解決しないといけない。特に、自動車産業にとって大きなテーマであるのがカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)全体での話だ。

CO2フリーにするには、材料から部品をつくるプロセス、アッセンブリーも含め、ライフサイクル全体で取り組まないといけない。走らせる時のエネルギーそのものも、CO2フリーにしないといけない。ここで重要なのが水素で、CO2フリーの電気をつくることができる。

さまざまな燃料にはそれぞれに長所短所がある中、いまはリチウムイオン電池がスタンダードになっているが、エネルギー全体を見ると、水素をどう増やすかも大きな課題だ。モビリティだけではなく、産業全体で水素に置き換えていく必要がある。

水素をめぐっては、これまでの産業界を超えた取り組みが世界で始まっている。日本でも普及活動推進に向けた活動団体ができ、400社ほどが積極的に活動している。水素はつくる、運ぶ、ためるといった取り組みが必要だ。

トヨタも燃料電池車の開発を手掛け、これはプリウスより歴史がある。燃料電池車(FCV)のテーマでは大きく、燃料電池スタックと高圧水素タンク開発がある。ハイブリッドと同様に制御も必要になる。こうした研究開発を通じて、FCV「MIRAI」の出力密度も向上している。

課題は水素ステーションだ。東京や名古屋、大阪周辺といった地域では、ユーザーはあまり不自由することなく(水素を)使えるが、ステーションが営業しているかどうか確認しないといけないこともあり、大きな課題だろう。

トヨタでは、水素関連の開発製造や営業などを集める取り組みも進んでいる。トヨタグループだけではなく、JRなどパートナーと連携し、地域のコンビニ配送のデータなども活用されている。中国や米国、欧州などでも展開されている。

こうして、技術革新を通じて社会課題を解決し、貢献する。そのときに大切なことは2つあると考えている。1つは、選択肢は最後にどこかに落ち着くかもしれないが、入口のところで選択肢を狭めないということ。もう1つは実現に向かってのスピード。日本は技術着手には早くても商用化に課題がある例も多い。

アカデミア、投資家も含め、連携をしながら進める。21世紀は「競争」ではなく、ともに協力してつくり上げる「共創」の社会になる。

もっとユーザー本位の議論を 講演後、参加者からいくつか質問が上がった。

「課題をどう乗り越え、チームをマネジメントしたのか」との問いに内山田竹志会長は、「プリウスは成功事例とされているが、実際は困難や失敗の連続でもあった。そんな中、自分自身が心がけたことは2つある。まずリーダーが前を走ってはいけない。それでは誰もいないことになる。もう1つは、みんなで情報共有すること。そうすれば失敗した時に皆で取り組める」と述べた。

加えて「これらを通じて、自分の仕事が難しくならないようにするにはどれがいいかとか、何か問題があったときに、うちの責任ではなくてどこかの部署の責任にするといった(個別最適の)考え方ではなく、みんなで取り組んでいると考えるという変化が起きた。全体最適の雰囲気が強くなり、自分の部門にはやや不利な案であっても、(全体が)うまくいきそうなときは提案をしてくれるようになった」とも説明した。

〈講演後の取材に応じて〉

今の電動化の動きは、ユーザーが置いていかれているように見える。もっとユーザー本位の議論が必要ではないか。今日は講演に登壇させていただき、皆さんの熱意を改めて感じた。取り組みの話が参考になればうれしい。

カテゴリー 展示会・講演会
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞5月2日掲載