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2024年5月09日

「イノベーションが未来を拓く」日本自動車会議所・内山田会長講演から(上)

日本自動車会議所は4月23日、都内で会員研修会第300回記念講演会を開いた。内山田竹志会長が「イノベーションが未来を拓(ひら)く」をテーマに講演。自身が手掛けた世界初の量産ハイブリッド車(HV)である初代「プリウス」の開発秘話から、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)に関する考え方や取り組みについて語った。

プリウスは1997年発売で、発売から27年になる。トヨタ自動車社内では93年に、21世紀の車について考え、開発する勉強会が発足した。誰か専任でプロジェクトをやった方がいいということで、93年秋、役員に指示を受けて担当になった。新しい開発と、従来の開発手法を採り入れることが課題になった。

94年にプロジェクトが始まったが、最初は社内でも研究・実験車的な位置付けだった。各部署にいろいろお願いしても、なかなか忙しくてやってもらえない。それなら逆に人を期間限定で出してくださいということになった。私は当時46歳だった。

プリウス開発は大きく前期と後期に分かれる。まず、車の企画を練り、実現のためにどういう技術開発をするかをまとめる。社内でオーソライズされた後、発売に向けて、実際の開発生産準備を進める商品化に取り組む。この2つのフェーズからなる。

まず、われわれが目指す21世紀とは何なのかというコンセプトを改めてしっかりつくろうと作業に着手した。コンセンサスを得たのは、車の便利さと快適さを維持し、21世紀の社会の課題に解を出すことに取り組むことだった。

女性の活躍や中国の動向といった課題もあるが、21世紀は間違いなく資源・環境問題が課題。これを解決するというのを目指した。技術的な目標では、圧倒的な燃費を実現しよう。そして21世紀の資源・環境問題に答えを出していくことを目指した。

コンセプトをつくり、役員会に提案した。「こういうコンセプトの車は、あまり面白くない。たぶん通らない」と皆から言われたが、了承が得られ、次のフェーズにということになった。

燃費を1・5倍にという案もあったが、それでは従来の延長になる。もっと高くと、当時の2倍を目指すことにした。従来の技術の延長線上ではなく、新しいハイブリッド技術を投入して実装すれば実現できるということになった。

最初からハイブリッドを開発しようとして始まったプロジェクトではない。コストなども課題になるからだ。ただいずれこの技術は必要になる。開発は厳しいかもしれないが、チームで先進モデルをやる価値はある、ということになった。

燃費をもっと高いレベルにもっていくには、どういうハイブリッドシステムが一番適しているか。ゼロから考えようと当時、調べたら、世の中に80種類ぐらいのシステムがあった。20種類ぐらいに絞り込み、その間に、ハイブリッドのシミュレーターを開発してもらった。

システム効率を基準に評価し、シミュレーションして、残ったのは4つだった。また、ハードウエアはシンプルにしつつ、ソフトで頑張るという方針で研究した。

約半年間、この検討を進め、今のトヨタのハイブリッドシステム、これで商品化しますというのを95年5月に提案した。この間、プロトタイプはつくっていない。そしてその秋、最初のハイブリッドシステムを搭載した車ができた。

ただ、完成してから49日間、全く動かなかった。悪いのはソフトか配線か、通信か、コンピューター関連か。当初は原因が分からなかった。12月、クリスマスごろになって初めて、テストコースを走った。500㍍だったが、開発陣にとっては、自分たちが考えたハイブリッドシステムがちゃんと作動して動いた。「あとはどんどん行くぞ」ということで当時、ビッグなクリスマスプレゼントと喜んだ。

開発では2つの例にならった。まずアポロ計画。必要な技術を分けて要素技術ごとに開発し、組み合わせることにした。もう1つは、戦争末期のロケット迎撃戦闘機「秋水」で、迅速な開発を進めたものだ。こうした先人たちにも学び、97年末に発売することができた。

カテゴリー 展示会・講演会
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞5月1日掲載