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2024年4月18日

オートモビルカウンシル クルマ文化醸成へ、自動車メーカー多様な取り組み

クルマの文化を後世に―。12~14日に幕張メッセ(千葉市美浜区)で開催されたヘリテージカーのイベント「オートモビルカウンシル」には、会場に展示された旧車を堪能しようと3日間合計で過去最多となる3万9807人が来場した。ヘリテージカーのカスタマイズショップなどが多数出展するイベントだが、自動車メーカーも今年は5社が出展した。新車のビジネスに直結するものではないものの、日本のクルマ文化を醸成するため、往年の名車やレストア車両を展示してクルマの魅力を発信した。

〇受け継ぐ技術やDNAを披露

自動車の電動化や環境・安全規制の強化などによって個性的なクルマが姿を消している中、自動車メーカーは重視しているDNAや、現在まで受け継いでいる技術などをオートモビルカウンシルで紹介する傾向が強い。

例えば三菱自動車は「パジェロ」や「ランサーエボリューション」などレース参戦車両を展示した。これらレースの現場で鍛え上げて市販車にも展開してきた四輪駆動(4WD)技術の進化を示すとともに、最新の4WD技術を搭載した新型「トライトン」を展示した。

世代の異なる「シビック」3モデルを展示したホンダも、手動変速機(MT)のスポーツモデルを共通項に、ホンダの技術へのこだわりを紹介した。

マツダのブーステーマは「ロータリースポーツカーコンセプトの歴史と未来」で、過去のモーターショーなどで公開したロータリーエンジンを搭載したコンセプトカー3モデルを出展した。中でも注目を集めていたのが1970年の東京モーターショーに出展したコンセプトモデル「RX500」だ。レストアを施し、現在も実際に走行することが可能という。

レストア車で注目された出展車両がトヨタ自動車の初代「クラウン」だ。レストアした車両をただ単に紹介するだけでなく、レストア作業を若手技術者の技能向上に役立てている。レストアは22年に、高い技能を持つ技能工の中から有志を集めて取り組んだ。1955年に誕生した初代クラウンの生産設備はすでになく、生産手法も現在とはやり方が大きく異なる。当時と同じ仕様のクラウンにするため、図面を基に部品を再生するなどして手作業で蘇らせた。レストアする過程で、自動車を製造する基礎を身に付けるための重要な取り組みになっているという。

半世紀以上前のモデルも珍しくないヘリテージカーだが、「ヤングタイマー車」として若者からの人気が高まっている。「ラブゴーズオン」をテーマに若年層をターゲットにしたブースに仕上げたのが日産自動車だ。昨年秋に実施した「日産ヘリテージカー総選挙」で人気が高かった「シルビア」「フィガロ」「プリメーラ」を展示し、若年層など幅広い層からの関心を集めた。

〇レンタカーや部品の復刻も

ヘリテージカーの現在の新型車にはない個性やデザインに魅力を感じている若年層も少なくないという。ただ、補修部品の入手が困難で高額になるメンテナンス費用や盗難対策など、保有する上でのハードルは高い。トヨタはこうした課題を解決するサービスとして「ヴィンテージクラブ」を展開している。トヨタと新明工業がレストアしたヘリテージカーを「キント」のレンタカーとして貸し出す取り組みで、SNS(ソーシャルネットワークサービス)やリアルでのイベントなどを通じて若年層に対するサービスの認知度アップを図っている。

また、トヨタはヘリテージカーを長く保有するのを支援する取り組みとして生産が終了したモデルの部品を復刻する「GRヘリテージパーツプロジェクト」も展開している。2019年のサービスを開始以降、「2000GT」「AE86」など、対象車種を広げるとともに、復刻部品を180種類まで拡大した。イベントには展示していなかったが、復刻部品は日産やホンダなどの他の自動車メーカーのモデルも展開する。

〇目先の収益にとらわれず意識改革を

こうしたヘリテージカー向けの取り組みは、自動車メーカーにとって収益につながらず採算度外視で行っており、レストアに関しても「好きな人がやる」活動にとどまりがちだ。ただ「クルマを作って終わり」では、日本にクルマ文化は根付かない。クルマ文化の先進国とされる欧州と比べて大きく後れをとっている原因でもある。例えば、日本にある欧州車のオーナーズクラブでは、本国から自動車メーカーの担当者が来日してイベントをサポートするケースも少なくないという。

トヨタ博物館の布垣直昭館長は、欧州自動車メーカーのこうした取り組みは「オーナーがクルマの価値を高めてくれるのだから(全面的にサポートするのは)当たり前のことという感覚」と、驚きはないと解説する。世界の新車市場の約3割を持つ日本の自動車メーカーも目先の収益ばかりに捉われずクルマ文化の醸成に向けた意識改革が求められる。

カテゴリー 展示会・講演会
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞4月18日掲載