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2024年3月26日

「フォーミュラE」30日に東京大会 マシン支えるサプライヤー技術

電気自動車(EV)による自動車レース「FIAフォーミュラE世界選手権」の東京大会が30日、江東区の東京ビッグサイト周辺で開催される。主要都市の公道を舞台に開かれるEVのフォーミュラカーレースへの注目度は高く、全世界のファン数は3億人以上だという。その陰にはマシンや大会を支えるサプライヤーの技術がある。各社は技術の進化だけでなく、気候変動対策といった自社のサステイナビリティー活動につなげる動きもある。

フォーミュラEは2014年に第1回大会が開かれた。走行中に二酸化炭素(CO2)を排出せず、甲高いモーター音と風切り音を響かせて走る様子は、F1(フォーミュラワン)などとは一線を画す。

マシンはモーターなど電動パワートレインを除いて共通設計だ。昨年から導入している「第3世代」では、最高出力が第1世代の200㌔㍗(約272馬力)から350㌔㍗(約476馬力)に向上し、消費エネルギーの4割近くを回生するという。停止状態から時速100㌔㍍に達するまでの加速に要する時間はわずか2秒ほどだ。

こうした動力性能を支えるサプライヤーの1社がZFだ。同社は電動パワートレイン(モーター、インバーター、ギアボックス)を2チームに供給している。電圧800㌾の電動パワートレインはフォーミュラE向けに先行開発し、現在は量産車向けに市販している。インバーターもSiC(炭化ケイ素)パワー半導体を先行投入するなど、フォーミュラEを技術実証の場として活用している。またショックアブソーバーも全チームに供給している。

足回りは、タイヤを単独供給する韓国のハンコックタイヤも支える。フォーミュラEは全天候タイヤを用いており、濡れた路面にも対応する必要がある。同社は左右でコンパウンド(接地面のゴム)が異なるタイヤを開発。外側は乾燥路での高温状態に適し、内側は濡れた路面でもグリップする設計を用いた。原材料の26%以上は再生材を用いたという。

マシンへの電力供給を担うのは電機メーカー大手のABBだ。最大160㌔㍗で急速充電できる「レースチャージャー」を全チームに供給する。日本でも約700台が設置されている「テラ184」充電器が基盤になっているという。レース戦略上、重要となるマシンの電池残量を可視化するソフトウエアも手がけているほか、世界中にレース映像を届ける放送用電源に無停電電源装置(UPS)も供給し、選手権そのものを陰で支えている。

日本勢として唯一参戦する日産自動車もパワートレインを独自開発し、レースカーと市販車の技術を相互に生かす考えだ。EVの技術は100年以上の歴史を持つ内燃機関車に比べて発展途上にある。各社はフォーミュラEを「走る実験室」とし、量産品の技術進化につなげていく。

技術面だけでなく、社会課題の解決に向けた意識啓発に活用する動きもある。帝人は昨シーズン王者の英エンビジョン・レーシングに協賛し、耐熱性に優れたメタ系アラミド繊維がレーシングスーツに使われている。当初は海外での事業認知度の向上が狙いだったが、同社コーポレートブランディング部の若杉理可課長は「フォーミュラEはレースを通じて大気汚染の改善に取り組んでおり、帝人の企業姿勢に合っている。同じ価値観を持つパートナーを見つける意味でも重要」と意義を話す。

チームは「レース・アゲインスト・クライメートチェンジ(気候変動との競争)」を掲げ、単なるスポーツ興行を超えて環境保護を啓発するイベントを開催している。過去には国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の議長も招いており、東京大会では内川哲茂社長が登壇して持続可能なモビリティについて話し合う予定だ。

フォーミュラEはモビリティの電動化をけん引するだけでなく、気候変動を食い止める旗振り役の意義もある。東京大会を契機に環境意識向上に向けた機運の高まりが期待される。注目の東京大会は30日午後3時にスタートする。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞3月25日掲載