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2024年3月22日

石川・福井県、新幹線延伸機に地域活性化 自動運転EVバス、ライドシェアも

北陸新幹線が16日に延伸開業し、下り列車の終点が従来の金沢駅(石川県)から敦賀駅(福井県)に移った。新区間沿線の市町村は、これを「100年に一度のチャンス」(石川県加賀市・宮元陸市長)と捉え、観光誘致や地域経済の活性化に力を入れている。その一翼を担うのが、地域の移動を担う交通事業者だ。新幹線の延伸に合わせて、ライドシェアや自動運転バスの運行を本格化するなど、活発な動きがみられる。

北陸新幹線は1997年、東京~長野の運行を開始し、2015年3月に金沢駅までの区間が開業。そして今回、金沢~敦賀の125㌔㍍が延伸された。沿線都市にとって北陸新幹線の延伸は、北陸エリアと関西圏や中部圏をつなぐ在来線特急「サンダーバード」「しらさぎ」が運行開始した1964年以来、60年続いてきた〝昭和の景色〟を一夜にして変える出来事になった。「地域経済を盛り上げる一大好機」(加賀市・宮元市長)などと、新たな時代に向けた歩みを軌道に乗せる意欲が示される。

新幹線と地域を結ぶ役割を担うのが、バスやタクシー、さらにライドシェア、レンタカーなどを含む交通サービスだ。まず県内全線開業となった石川県では、県外来訪者の利便性に加えて、金沢や小松といった都市間アクセスの大幅な改善に向けて、新しい交通サービスの活用が本格化しつつある。

小松市はボードリー(佐治友基社長、東京都港区)などと2022年8月に事業連携協定を結び、小松空港と小松駅を結ぶ自動運転電気自動車バス(EVバス)の実用化を進めてきた。そして試験走行などを経て、今年3月に通年運行を開始した。当面はドライバーが同乗する「レベル2」(特定条件下での自動運転機能)で運行し、25年度以降にドライバー不在の「レベル4」(特定条件下における完全自動運転)の実現を目指す。

従来、公共交通機関を利用して小松空港から金沢市内に向かう場合の交通手段は事実上、小松市内を素通りしてしまう空港リムジンバスに限られていた。しかし、新幹線小松駅の開業と自動運転EVバスによって、市内に立ち寄る人が増加し、地域の風土や文化を楽しんでもらう機会を提供しやすくなると考える。

実際、新幹線開業イベントで小松駅を訪れた人の中には、建機大手のコマツ発祥の地が小松市であることを知り、「コマツって小松なんだ!」と驚きつつ親しみを感じる姿が見られ〝開業効果〟が早速表れた。

加賀市はウーバージャパン(山中志郎代表、東京都港区)と包括連携協定を締結し、地元住民ドライバーと自家用車による移動サービス「加賀市版ライドシェア」の本格運行を開始した。このライドシェアは、加賀市観光交流機構が実施主体、タクシー事業者の加賀第一交通が運行管理者となり、同社による選考と講習を修了した登録ドライバーがサービスを行うもの。自家用有償旅客運送事業の規制緩和により、運賃はサービス展開エリアのタクシー料金の8割程度とし、ドライバーは売り上げの7割を報酬として受け取れる。

乗客とドライバーのマッチングや配車依頼、決済にはウーバーの配車アプリを利用する。ドライバーには70人以上の応募があり、12日時点で14人を登録した。北陸新幹線加賀温泉駅のロータリーには「ウーバー専用乗り場」を設置した。観光利用の促進にとどめず「能登半島地震で加賀市に避難している被災者の移動にも活用してもらえれば」(山中社長)とする。ウーバーのグローバルな事業展開を、加賀市の観光誘致に役立てたいとも考える。

レンタカー業界の動きも活発だ。トヨタレンタリース石川(架谷洋司社長、石川県金沢市)が「トヨタレンタカー小松駅店」を3月に開設し、トヨタレンタリース福井(中川伸一朗社長、福井県福井市)は延伸に先んじて各店舗のリニューアルを実施した。リニューアルではそれぞれの店舗の立地などを生かして特色を打ち出し、一部店舗には地元の特産品紹介コーナーを開設。店舗によって演出を変える試みは、同社にとって初めてだ。今後も利用客の反応などを見ながら、地域の魅力を一層発信できる店舗運営に努めていく。

さらに、県が新幹線延伸に伴う地域の移動支援として、レンタカーなどの整備を支援する政策に合わせて、ハブ拠点に広大な駐車場を完備し車両在庫を増やしやすくした。

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延伸開業日は天候に恵まれ、大勢の人が「新幹線と春が一緒に到来した」と異口同音に唱えた。北陸新幹線は現在、敦賀~大阪間のルート詳細や着工時期が未定だが、今回の延伸エリアが新たな交通サービスを活用して地域を盛り上げていくことが注目される。その成果は、今後の地方都市再生のシナリオづくりの参考になりそうだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞3月22日掲載