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2024年3月05日

軽商用EV投入本格化 大手配送事業者が導入計画

国内で軽商用電気自動車(EV)の投入が本格化する。2023年12月に三菱自動車が「ミニキャブEV」を発売、ホンダは今春「N―VANe:(エヌバンイー)」を発売する。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)の達成に向け、配送事業者などが走行時に二酸化炭素(CO2)を排出しないEVに切り替え始めている。軽商用EV(バンタイプ)市場は、30年度には現在の10倍以上となる年間10万台規模の需要が見込まれる。法人向けとして、まとまった台数を導入できる軽商用EV。日本のEV普及の足がかりとなるか。

配送事業者では、日本郵便が東京都を中心とした近距離輸送エリアで三菱自の軽商用EV「ミニキャブ・ミーブ」を導入済みだ。同社は25年度までに軽四輪自動車約1万3500台をEVに切り替える方針を掲げる。ヤマトホールディングスは30年までに約2万台をEVとする。軽商用EVではホンダと実証を行い、実用性などを検証済みだ。

大手配送事業者ではまとまった台数の導入を計画しており、軽商用EVの普及が急速に広がる可能性がある。三菱自の調査によると、軽商用EV(バンタイプ)の市場は24年度には現在の6倍近くの台数が普及し、その後も年々増加し続ける見通し。軽商用車は、ラストワンマイルとして活用されるケースが多い。住宅地など狭い道を走行することも多いため、モーター駆動で静かなEVは早朝や深夜でも気兼ねせず使える利点がある。

この需要を獲得しようと、日本の自動車メーカーが軽商用EVを投入する。三菱自はミニキャブEVをすでに発売し、ホンダは今春の発売を予定している。

本来であれば、ダイハツ工業とスズキ、トヨタ自動車が23年度内に、ダイハツ「ハイゼット」をベースとした軽商用EVを発売する予定だった。ダイハツの認証不正問題を受け、現時点で投入時期は未定だ。ダイハツなど3社が年度内に発売していれば、24年春には軽商用EVが出そろう予定だった。

当面は、ホンダと三菱自に加え、三菱自からOEM(相手先ブランドによる生産)供給を受ける日産自動車の3社で市場を広げていくことになる。ホンダは年販2万台、三菱自は月販500台を目指す。ホンダは「ジャパンモビリティショー2023」でエヌバンイーを展示した。担当者は「(事業者向けの)試乗会では評判が良い」と話す。

課題となるのは航続距離だ。三菱自はミニキャブ・ミーブから価格を据え置きながら、航続距離を約35%増となる180㌔㍍(WLTCモード)に延ばした。ホンダは航続距離210㌔㍍(同)以上を目指す。ダイハツはジャパンモビリティショーで出展した軽商用EVのコンセプト車で、約200㌔㍍としていた。

ホンダやダイハツが航続距離を「200㌔㍍」に設定するのには理由がある。冬場は、暖房の使用などでバッテリーが消耗する。降雪地域では約半分、東京や大阪でも「3割程度」(ダイハツ担当者)が減ると言われている。

そのため、残ったバッテリー容量でどれだけ走行距離を確保できるかが重要となる。ホンダの担当者は「暖房の使用状況にもよるが、バッテリーの半分が消耗することを考えると、(配送に必要な)距離は最低でも100㌔㍍を確保する必要がある」とする。ダイハツも同様の考えだ。電欠になると業務に支障が出てしまうため、十分な航続距離を確保していく。

三菱自は、ユーザーを対象に調査を実施。1日の走行距離が「90㌔㍍」と答えたユーザー数は8割以上に上った。今回は車両価格を据え置くことも考慮して、航続距離は180㌔㍍とした。搭載バッテリーの容量は従来モデル比約1.2倍の20㌔㍗/時だ。

航続距離を延ばすにはバッテリーの容量、性能が重要となるが、バッテリー容量は充電時間にも大きく関わる。充電時間を不要とするバッテリー交換式軽商用EVも、実用化への検証が進む。

ホンダでは、「N―VAN(エヌバン)」をベースに、同社製の「モバイルパワーパックイー」を用いたバッテリー交換式EVを開発。23年11月からヤマト運輸と実用性などの検証を続けている。バッテリー交換式は充電時間が不要なことが利点だが、同車両では航続距離が75㌔㍍にとどまる。ホンダは充電式とバッテリー交換式の2タイプの軽商用EVで「ユーザーの要望に応じて商品提供できるようにしたい」(担当者)と考える。

社会インフラの一つである軽商用車。EVシフトを背景に新興メーカーの参入もみられる。日本の自動車メーカーはこれまで培ってきたネットワークを生かし、軽商用EVの普及を進める。日本のEV本格普及のカギは軽商用EVが握っている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞3月4日掲載