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自動車産業インフォメーション

2024年1月12日

部品メーカー 本気で取り組む異業種事業、農業・防災など新規参入

自動車部品メーカーが相次ぎ新規事業に挑んでいる。こうした動きは業界の〝定番〟だが、今回は本気度が違うようだ。電動車シフトで、遠からず既存部品の需要が喪失することへの恐怖心が各社を新規事業へと駆り立てる。ただ、「餅は餅屋」というように、どの事業もそう簡単ではない。自動車部品で磨いた技術力や生産設備を新規事業へと昇華できるか。長年、自動車部品事業に慣れ親しんだ各社の変化への力が問われている。

部品メーカーとの親和性が高い事業として注目を集めるのが電動自転車だ。長距離や悪路での走行に適したスポーツタイプの製品は「E-バイク」と呼ばれ、欧州を中心に市場が拡大している。日本でも「ラストワンマイル」の移動手段として、シェアリングサービスなどが増えてきた。

ミネベアミツミは、モーターやコントロールユニットなどの基幹部品を一体化したパワーユニットの開発を進める。ペダルを漕ぐ際の「踏力」をセンサーで検知し、運転者の踏力に応じてキメ細かくモーターがアシストする。担当者は「自転車以外の小型モビリティとも相性が良い」とし、本格参入に意欲を見せる。

ジヤトコは、主力の無段変速機(CVT)で培った技術を生かし、モーターに変速機構を組み合わせたドライブユニットを開発。2024年の量産化を検討している。

ものづくりとは縁遠いと思われる農業や水産業への参入も相次ぐ。こうした一次産業は重労働が多く、作業の大部分を人手に頼る一方、担い手不足が深刻だ。各社は、自動車部品の生産技術で培った省人化や環境制御のノウハウが役立つと期待する。

椿本チエインは、自前の植物工場を建設し、付加価値の高い野菜を栽培する技術の確立に取り組む。熊倉淳執行役員は「品質のばらつきをなくし、大量生産に適した工程管理を行う。ものづくりの力が生かせる領域だ」と話す。

デンソーは、食農事業のグローバル展開を視野に、施設園芸事業を手がけるオランダのセルトングループを23年8月に子会社化した。

異業種への参入は、商慣行や要求水準などの面で本業とのギャップを克服することが成功のカギとなる。NTNの開発した移動型独立電源「N3 エヌキューブ」は、風力と太陽光で発電するコンテナ型の製品で、平時は防災倉庫やエコトイレ、災害時は非常用電源として使える。主な提案先は自治体だが、20年の発売当初は入札制度などB to G(政府や自治体向け)ならではの商慣習にとまどいもあったという。地道な営業活動により導入が広がりつつあるが、収益化に向けては「まずは業界でのポジションを確立すること」(同社担当者)と慎重だ。

東海理化は23年春にゲーミングギアの自社ブランドを立ち上げた。eスポーツで使用するキーボードなどは、高い応答性や激しいプレーに耐える性能が求められる。開発にあたってはeスポーツプロチームと協業。車載用スイッチなどで培った技術を生かし、プロゲーマーも一目置く水準を実現した。

部品メーカーによる新規事業は、社員の成長を促し、人材確保につながるだけでなく、社会課題の解決などを通してステークホルダーにアピールできるといった側面もある。中長期的な企業価値の向上を目指す上でも、新領域への挑戦は欠かせない事業活動になるだろう。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞12月29日掲載