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2023年12月22日

「五感」に訴える技術に変化 EV・自動運転時代に創造する新たな商品価値

運転がしやすく乗員が酔いにくい車、電動化や自動運転化によりエンターテインメントが充実した車―。こうした乗員の快適性や充実感を実現するための要素となる人間の「五感」は、良い車づくりに欠かせなくなっている。自動車メーカーは、乗員が車内をリビングのように、違和感なくリラックスして過ごせる空間にするため、ドライバーが疲労なく運転するための工夫を凝らす。今後、電動化や自動運転、ソフトウエアが車の進化を主導する「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」により、自動車が提供する価値の幅は広がる見込み。自動車が五感に訴える技術も変化し始めている。

五感は「視覚」と「聴覚」「嗅覚」「触覚」「味覚」で、車づくりで生かされる五感は味覚を除いた4つもしくは、触覚を一部含む「体性感覚」を入れ五感とする企業もある。

自動車メーカー各社は快適な車を開発するために技術の改良を重ねている。例えば車酔いは、「急な頭の動きや視界の狭さ」(日産自動車第二製品開発本部第三プロジェクト統括グループの黒田和宏車両開発主管)という要因がある。そのため、日産「セレナ」では乗員の視界を確保。乗員が車の動きを把握して平衡感覚を保つことで酔いにくさを実現した。

運転しやすい車では、「人馬一体」を掲げるマツダが2016年に「G―ベクタリングコントロール」という技術を開発し、実用化。ドライバーのハンドル操作に応じてエンジンの駆動トルクを変化させ、車両の横方向、前後方向の加速度を統合的にコントロールすることで車両のスムーズな動きや安定感を高めた。運転のしやすさに加え、ペットでも酔いにくく快適に過ごせることが分かっている。

ホンダは、4代目「フィット」を五感で感じる心地良さをテーマに開発。車内空間ではドライバーや乗員の見晴らしを良くするためにフロントピラーを短縮。シートやハンドルなど人が触れるパーツの触感は上質に仕上げたことで、ドライバーと乗員が癒しを感じる空間にした。

各社は乗員の快適性実現に五感からヒントを得てきたが、SDVや自動運転など技術の進化により、車内空間に求めるニーズも変わってきている。トヨタ自動車の高畠元キャルティXDクリエイティブダイレクターは「五感の刺激も重要だが、(車で移動する)価値体験が重要」と語る。米テスラや中国メーカーなどでは車内のエンターテインメント化を進め、五感を通じ新たな体験ができる空間を提供している。日本の自動車メーカーもコンセプトカーなどで最新技術を打ち出している。

トヨタは「デジタライズド・インテリジェント・コックピット」を開発した。電動化や車載OS「アリーン」といった知能化と組み合わせることで、乗り味に加えメーターデザインを変更できる。「例えば車両はレクサス『LS』のように大きな車でも、『2000GT』のような走り味やインパネを実現できる」(高畠氏)という。将来的には、「オイルのようなにおい」などの香りも実現でき、ドライバー体験の幅を広げる考えだ。

ソニー・ホンダモビリティ(SHM)は2026年に発売予定の電気自動車(EV)「アフィーラ」でインストルメントパネル全面を大画面化したスクリーンを採用する。ユーザーがカスタマイズできる仕様を実現する考えだ。加速時のモーターの音を人為的に変えて運転を楽しめるサウンドも提供できるようにする。

五感技術では「自動運転で車内空間の価値が上がる」(豊田合成)と、商機を見出す部品メーカーも多い。旭化成は繭(まゆ)のような形をしたコンセプトカー「アクシー・ポッド」で、五感に訴えかける空間を提案。走行場所に応じた映像を車両の天井に映し出したり、香りを送る技術を盛り込み、自動車向けなどでの活用を模索する。

豊田合成は、コンセプトカー「フレスビーBEVコンセプト」でLED照明技術を生かした車内空間を演出する。音に合わせてインパネやドアトリムの一部が光るパーティーモードや、自動運転時に乗員がくつろげるリラックスモード、ドライバーへの安全通知といったさまざまな活用ができる。

トヨタ紡織は自動運転「レベル4」(特定条件下における完全自動運転)を見据えたコンセプトカーの中で、乗員が快適に過ごせるシート「MX Prime」を開発。乗員が短時間で入眠できる工夫を施している。リクライニングするシートや星空を映し出した天井、乗員にのみに聴こえる音楽、前後にシートを揺らす機能などで睡眠を誘う。ヘッドレストの首元から風を届けることで自然に目覚めることができる、最上級の移動体験を提案する。

EVや自動運転の時代になっても、ドライバーや乗員の感覚なしに車づくりはできない。自動車メーカーやサプライヤーは五感も含めたさまざまなユーザーの感覚を商品に落とし込み、新たな価値創造を提案できるよう開発を進める。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞12月18日掲載