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2023年11月29日

サプライヤー各社 ブレーキやステアの「バイ・ワイヤ」技術開発を加速

自動車の「止まる」「曲がる」を電気信号で実現する「ブレーキ・バイ・ワイヤ(BbW)」「ステア・バイ・ワイヤ(SbW)」の開発に部品メーカーが力を入れている。技術そのものは2000年ごろから開発されてきたが、電動化とソフトウエアを重視する開発潮流とともに昨今、脚光を浴びている。ソフトによる「統合制御」と組み合わせて安全性を高め、開発工数が削減できるメリットもある。ただし、コストやトラブル対策など、普及への道のりは平たんではない。

通常、ブレーキは油圧を、ステアリングはシャフトとギアを介して車両に操作が伝わる。バイ・ワイヤはドライバーの指示を電気的に、ブレーキやステアリングに搭載されたモーターに伝える。ドライバーと車両との機械的つながりを「切り離す」ことができる。

BbWは、4輪を独立して制動力を緻密にコントロールできる点が大きなメリットだ。摩擦係数が変化する雪上や雨天時に急ブレーキを踏んでも、振動を生まずに真っ直ぐ停止できる。反応速度が速まることから、ブレーキパッドとディスクの「引きずり」をなくし、ブレーキ摩耗粉じんを減らせる。

SbWはステアリングを切る量や反力を変化できる。ステアリングの形も自由になり、障害者や高齢者も扱いやすくなる。右ハンドルと左ハンドルでシステムの設計を変える必要もなくなる。すでに日産自動車が実用化し、2024年末にはトヨタ自動車が機械部分を完全になくしたSbWを導入する予定だ。

開発が加速する背景の一つに、ソフトウエアが車両の進化を主導する「ソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV)」がある。メガサプライヤー各社は、車両や路面状態などから適切な操舵量やスピードを判断する「統合制御ソフト」の開発に力を入れる。ここで電気的に素早く伝達するバイ・ワイヤを使えば、車両をよりきめ細かくコントロールできる。

電動化による車両構造の変化も追い風となっている。現在、車には数十個のECU(電子制御装置)が搭載され、張り巡らされた配線でつながっている。この「E/E(電気/電子)アーキテクチャー」は複雑化しており、今後、機能ごとや搭載位置ごとに高性能ECUに統合され、整理されていく見通し。運転感覚といった微妙な「味付け」もソフトと高性能ECUで自在に、容易に変えられる。

開発効率化にもつながる技術だが、「バイ・ワイヤの本質的価値は人を助けることだ」と、日立アステモの次世代シャシー開発本部の桐原建一本部長は話す。ソフトを人の頭脳、ハードを手足に例えて、「頭が良くなっても手足の能力が変わらないと車は安全が確保できない」とし、バイ・ワイヤとソフトを組み合わせ、安全性といった価値を引き上げることが重要だと強調する。

普及には克服すべき課題も多い。まず懸念されるのがトラブルに備える「冗長性」で、水面下では規制当局との協議が続く。各社は系統を二重にする設計を取る。ボッシュも「安全性には必ずバックアップが必要」(シャシーシステムコントロール事業部シニア・ゼネラル・マネージャーのクリア・ヴィリー氏)とする。

コスト面も大きな課題だ。設計の抜本的見直しが必要となり、それに見合った価値があるかは議論の余地がある。サプライヤー各社は将来の生産増によるコスト減に期待する。ボッシュは半導体を内製していることも強みに挙げる。

人を助け、高度自動運転にも貢献するバイ・ワイヤ技術。20年代後半にも、まずはハイエンド車から市場投入される見込みだ。将来は商用車を含めた活用に向け、「バイ・ワイヤならではの価値」の訴求に各社が努めている。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞11月27日掲載