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自動車産業インフォメーション

2022年6月22日

部品メーカー、非自動車「稼ぎ頭」模索 事業ポートフォリオ拡充

部品メーカーが自動車事業で培った技術を生かし、新規事業に参入する動きが本格化している。参入分野は農畜産業や食品、医療関係など多岐にわたり、一見、自動車関連事業とは無関係な分野も目立つ。定時株主総会で定款の一部を変更し、事業目的に新規事業を追加するサプライヤーも相次ぐ。

電気自動車(EV)シフトによってエンジンを中心とする関連事業の縮小が避けられないサプライヤーは、これをカバーする新たな「稼ぎ頭」を手探りで模索している。

新規事業の創出に躍起になっているのがエンジン周りの部品が主力のサプライヤーだ。EVシフトでエンジンや燃料・排気ガスなど関連部品市場の縮小が確実視される中、強い危機感をもって取り組んでいる。日本ピストンリングは、医療用術具としてチタン・タンタル合金「ニフリート」の提案を強化するなど、医療機器関連事業の拡大を進めている。

昨年6月には医療機器メーカーのメドトロニックと植込型医療機器協同開発プログラムを開始し、12月には救急災害用器材の輸入販売などを手がけるノルメカエイシアを子会社化した。エンジン部品の開発で培った材料技術を新規分野に生かす。

TPRとリケンも既存のコア技術を生かした新規事業の創出に挑んでいる。TPRはゴム・樹脂やカーボンナノチューブ(CNT)などの新素材ビジネスの早期事業化に向けて用途開発に注力している。リケンはエンジン部品以外の新製品開発を強化している。産業用機器やモバイル機器向けに電磁波の抑制や、ミリ波を吸収するシート開発に力を入れる。

太平洋工業は、タイヤ空気圧監視システム(TPMS)で培ったセンシング技術を利用して牛の体調をモニタリングするシステム「カプセルセンス」の販売を開始した。温度・加速度センサーを搭載したカプセル型の子機を牛の胃に挿入し、乳牛・肉牛の体調を24時間モニタリングする。無線通信を使って体調の変化や分娩の予兆を検出する。データはクラウドに送られ人工知能(AI)で解析した結果をスマートフォンで確認できる。

同社の竹下功執行役員は「TPMSで培った技術を生かせないかを検討し、スマート農業のニーズに応えて開発した」と話す。数年後に年間10億円規模のビジネスに成長させることを目指している。

ファインシンターは、昨年の定時株主総会で定款を一部変更し、事業目的に「食糧品、加工食品および飼料などの製造ならびに販売」を追加した。粉末加工技術や熱処理技術を生かして昆虫食事業として「コオロギラーメン」を開発、販売にこぎつけた。昆虫は栄養価が高く、食糧問題の解決に寄与すると考えた。今後、他社と連携して年内に新商品を投入する予定という。

デンソーは6月開催の定時株主総会で定款の事業目的に農業関連の項目を追加する議案を提出する。浅井農園(浅井雄一郎代表取締役、三重県津市)と設立した合弁会社アグリッドで、トマト自動収穫ロボット「ファーロ」の実証を進める計画だ。

フタバ産業も定款の事業目的に農業関連機器の製造・販売を追加する予定だ。ハウス栽培用に二酸化炭素を貯留し、日中の光合成が活発な時間に作物へ供給する装置「アグリーフ」の展開を本格化する。

EVは内燃機関車と比べて部品点数が3分の2から半分に減るとされ、EVシフトによって自動車部品市場全体が縮小する。多くの部品メーカーがEV向け部品の開発を強化しており、競争が激化する見通し。このため、サプライヤーの一部は、自動車関連事業とは関係のない分野で、経営リソースを生かして社会課題解決につながるような事業を開拓して事業ポートフォリオを拡充、経営の安定化を図る構えだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞6月11日掲載