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自動車産業インフォメーション

2022年1月14日

再認識されたサプライチェーン重要性 一層の強靭化進める契機に

自動車メーカー各社は、2022年も世界的な半導体不足や新型コロナウイルス感染拡大に伴う部品調達難の影響を受けそうだ。昨年後半はコロナ禍の影響がいったん落ち着き、国内生産の正常化への期待が膨らんだが、部品供給不足の問題は解消されていない。国内物流のひっ迫という新たな問題も浮上し、一部メーカーでは減産や工場の稼働停止を余儀なくされるなど、先行きには依然として不透明感が漂う。

ただ、こうした課題は自動車メーカーがサプライチェーンの強靭化を検討する契機にもなった。メーカー各社は21年度の生産計画達成に向けて挽回生産を進めており、予断を許さない状況の中で改めてサプライチェーンの維持・強化が重要となっている。部品サプライヤーとともに新たなリスクにも迅速かつ的確に対応することがますます求められている。

予断を許さぬ先行き

21年の乗用車メーカー8社の世界生産台数は、半導体不足を背景とした生産調整や新型コロナウイルスの感染再拡大などで1月は前年同月比でマイナスとなった。だが、2月以降は、コロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)などの影響で大幅に落ち込んだ前年の反動が表れ、6月までプラスが続いた。

1~6月の世界生産は前年同期比30%増を記録したが、コロナ禍前の19年実績との比較では約3割少ない水準の月もあるなど本格回復には遠く、半導体不足や東南アジアからの部品調達難の影響の根深さが浮き彫りになった。

7月からは状況が一変する。8社中3社が2桁増を果たしたものの、4社は2桁減を喫するなどメーカー間で明暗が分かれ、8社合計は小幅ながらもマイナスに転じた。世界的に新車需要は回復傾向を示す中、生産活動の停滞により供給が追い付かない需給ギャップがこの頃から目立つようになった。

8月以降は半導体不足や部品調達難の影響が鮮明となる。世界生産は10月まで8社中7社が前年割れとなり、半減まで落ち込むメーカーもあった。この中で三菱自動車は半導体不足の影響が軽微だったこともあり、4月以降は前年超えが続いた。

21年4~9月期決算発表では「半導体不足や東南アジアからの部品調達停滞は改善に向かっている」とポジティブな見方を示すメーカーも多かったが、先行き不透明感も拭えず、通期の業績見通しでは非公表のスバルを除く多くのメーカーが販売台数(小売り)を大幅に下方修正した。

下期に入っても、依然半導体不足や東南アジア製部品の調達難の影響が残る中、自動車メーカーは通期の生産計画達成に向けて挽回生産に乗り出した。しかし、新たな問題にも直面したことで予定していた計画を見直している。

トヨタ自動車は12月に全工場で通常稼働に戻す計画だったが、当初計画に対し12月は約2万2千台、1月も約2万台の減産を予定するなど稼働調整を余儀なくされた。

従来の半導体不足やコロナ禍に伴う東南アジアからの部品調達遅延という理由に加え、国内の物流ひっ迫という新たな問題が浮上している。コロナ禍以降は船便の遅延やコスト上昇などを背景に、部品の種類や必要度に応じて物流を船便から航空便に切り替えるケースが増えた。

だが、主に発着数の多い成田空港で部品の通関にかかる時間が長期化し、部品が空港から出るタイミングを把握にしくいため、その先のトラック輸送も確定しにくい状況になったという。トヨタでは通関の混乱がサプライチェーン全体に影響を及ぼす状況が当面は続くと予想する。ただ、トヨタでは減産はするものの生産台数は高水準を維持しており、21年度の生産台数見通し(約900万台)は変更しない。

ホンダも鈴鹿製作所の12月の生産台数が当初計画に対し約1割減少した。12月から国内生産は正常化する見通しだったが、半導体不足やコロナ禍に伴う部品入荷や物流の遅延が影響した。他の国内工場の生産は計画通りで、鈴鹿製作所も1月に通常稼働に戻る見通しだ。

ピンチをチャンスとして

自動車メーカー各社は今後、挽回生産を本格的に進める方針だが、工場で働く人員の確保も重要となる。これは自動車メーカー自体ではなく、中小規模のサプライヤーが直面する課題だ。

コロナ禍による業績悪化で、希望退職の募集など、人員の適正化を図る部品メーカーも多かった。自動車メーカーの挽回生産に対応するため増員に動いたとしても、他業界も含め獲得競争が激化しているため、必要な人数を確保できない状況も想定される。人手不足がサプライチェーン寸断につながる可能性も否定できない。自動車メーカーと部品サプライヤーは新たなリスクにも迅速かつ的確に対応することが求められている。

今回の半導体不足は改めて自動車メーカーがサプライチェーンの強靭化を検討する契機にもなった。

ホンダは半導体の持ち方や長期契約を含めた購入方法見直しなど、半導体サプライヤーとの関係性を含めた戦略的なサプライチェーンの検討を進める。今後も不足が予想される半導体を安定的に確保できる体制を構築する構えだ。

日産自動車はルノーと三菱自とのアライアンスで世界的な半導体不足に対応する。自動車だけでなく非自動車の分野も含めて需要動向を予測して準備するとともに、ティア1やティア2だけでなくサプライチェーンの末端までつながりやすくする。「今回は危機だが、これをチャンスと捉える」(日産のアシュワニ・グプタCOO)とし、ビジネスの手法を考え直す機会と位置付ける。

スバルは半導体の在庫積み増しの検討を進めているほか、今後の開発車については部品の共用化や流通量の多い半導体を使用することも視野に入れる。

マツダの丸本明社長は半導体不足を一番のリスクと捉え、「最も大事なことはリスクを想定した経営を行い、危機レベルに合わせた対応を迅速に実行すること」と強調する。

半導体は世界全体でひっ迫し、改善には向かっているものの、当面は不安定な状況が続く見通しだ。状況が目まぐるしく変化する中で、正確な情報をつかみ、適切に対応することが重要となる。

可能な限り選択肢を拡大

自動車メーカーでは政府が掲げる50年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)実現に向けた取り組みが今後、本格化する。各社が新車販売の100%電動化や電気自動車(EV)の事業戦略について、明確な時期を示しながら方針を打ち出している。

カーボンニュートラルは車両走行時だけでなく、原材料の調達や工場での製造、完成車の輸送、廃棄・リサイクルという各段階において、二酸化炭素(CO2)排出量を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)の観点でCO2削減を進めることが重要となる。

自動車メーカー各社では自社内でCO2排出量削減の活動を推進しているだけでなく、取引先のサプライヤーに対してもCO2削減目標の提示を求めているほか、サプライヤーの組織である部品協力会に対してカーボンニュートラルに関する勉強会やセミナーを実施している。

ただ、内燃機関や変速機など既存の部品を手がけるサプライヤーにとって、急速な車両電動化は将来的にビジネスが失われる可能性もあり、不安を抱く企業も多い。自動車メーカーはサプライヤーが持つ技術や製品を電動車両に活用する方法を一緒に模索するなど、脱炭素化に向けてサプライヤーの意識改革を促すとともに、全面的な支援にも乗り出している。

日本の自動車メーカーはカーボンニュートラル社会の実現に向け、EVだけでなく、ハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)の開発にも注力し、バイオマスや合成燃料などカーボンニュートラル燃料や水素エンジン車にも領域を広げている。可能な限り選択肢を増やし、自動車業界で働く550万人の雇用を維持する構えだ。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界

日刊自動車新聞1月1日掲載