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2021年8月19日

日刊自連載「ズームアップ」(2)輸入車

欧州メーカーが電気自動車(EV)シフトを明確化する中、インポーター各社もEV対応の加速を迫られている。独メルセデス・ベンツ(MB)は7月下旬、2025年以降に発売する全ての車両をEVとする方針を公表。メルセデス・ベンツ日本(MBJ、上野金太郎社長、東京都品川区)も、これに歩調を合わせる方針とする。

アウディジャパン(東京都品川区)も、26年以降に発売する新車を全てEVとする独アウディの計画に準拠する方針を打ち出した。各社は新型EVの投入で次世代車のコンセプトを示しつつ、量販の主力モデルではハイブリッド車(HV)やプラグインハイブリッド車(PHV)のモデルを追加するなどの電動化も推し進めながら将来環境に備える。

主要な完成車ブランドでは、すでにボルボ・カーズやジャガー・ランドローバー、ホンダなどがEV専売時期を明確化した。こうした中で、独アウディも今年6月、26年以降に発売する新車を全てEVとし、33年までに内燃機関搭載車の販売を終了する方針を公表。

これを受けてアウディジャパンは「国内でのEV販売台数、シェアともに伸ばしていく」(フィリップ・ノアック前社長)と、将来的なEV専売に向けた準備を進める考えだ。まずは25年までに国内で販売するEVについて「e―tron(イートロン)」シリーズを含め10車種に引き上げる計画とする。

独MBも7月下旬、新たな電動化戦略を公表し、25年以降に発売する新車を全てEVとする方針を打ち出した。MBJも足並みをそろえ、EVの「EQ」シリーズをはじめとする電動モデルの販売底上げを図る。

7月14日には欧州委員会が、新車の二酸化炭素(CO2)排出量を30年までに21年比で55%削減、35年までに100%削減する目標を設定した。20年から適用する従来目標では30年までに乗用車で37・5%、バンで31・0%削減(いずれも21年比)としていたことから、野心的な修正が図られた格好だ。

今後も欧州メーカーを中心にEVシフトのロードマップを明確化する動きが広がることは必至で、こうした流れはインポーターの販売施策にも影響を及ぼすとみられる。

もっとも、メーカーやインポーター各社の思惑と消費者ニーズには未だ隔たりがある。日本自動車輸入組合(JAIA、ティル・シェア理事長)がまとめた21年1~6月の外国メーカー車新規登録台数のうちEVは3270台で、パワートレイン別のシェアは2・4%にとどまっている。

すでに20年(1~12月)の実績を上回るペースとなっているものの、数量的には内燃機関搭載車に遠く及ばないのが現状だ。

こうした中でインポーター各社は、給電設備の増強などによってユーザーの不安解消を図るほか、EV普及への足掛かりとしてHVモデルやPHVモデルの訴求にも力を入れる。

6月にそれぞれ全面改良したMBJの「Cクラス」とフォルクスワーゲングループジャパン(VGJ、ティル・シェア社長、愛知県豊橋市)の「ゴルフ」は、全グレードをHVまたはPHVとして展開した。EVの投入で次世代のクルマのあり方を提示しつつ、固定客も根強い主力モデルでは顧客ニーズの充足と電動化の両得を図った格好だ。

こうした多様な選択肢を通じて電動車全般への抵抗を払拭し、長期的なEV販売への布石を打つことができるか、正念場を迎えている。

相次ぐ新型車の投入などの好材料がそろいつつある一方、足元では半導体不足などに起因する新車納期の遅延も懸念される。販売現場では「(問題顕在化以前から抱える)受注残を順に納車している状況。

通常時の納期が比較的長い輸入車特有の性格もあり、国産車ほど深刻な状況には至っていない」(首都圏の輸入車ディーラー社長)との声が多くを占める。ただ一方で、半導体不足の影響でカーナビゲーションシステム(カーナビ)設定車の納車見通しが立たず、一部のモデルで車両価格を割り引いて非設定車に誘導している事例もある。

「お客さまにはスマートフォンとの連携で一通りの機能が使えることを説明して理解を得ているが、純正カーナビを望むお客さまには当面待ってもらう状況だ」(都内の輸入車ディーラー代表取締役)。

21年上期(1~6月)の外国メーカー車新規登録台数は、前年同期比19・3%増の13万6491台。登録車全体の新車販売台数に占めるシェアも9・0%と上期としての過去最高を更新した。コロナ禍からいち早く回復軌道に乗せて新車市場を盛り上げてきたが、受注残が払底すれば環境は一変しかねない。輸入車の今後の販売状況に、引き続き注目が集まる。

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 一般,自動車業界

日刊自動車新聞8月11日掲載