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2019年8月26日

「過疎地型MaaS」行政が旗振り 中国地区 AIで利用予測、スマホ予約管理

少子高齢化で地方の過疎化が進行する中で、お年寄りなど移動弱者の移送をどう確保するのか-。中国地区で行政が旗振り役を務めながらMaaS(サービスとしてのモビリティ)を提供する動きが顕在化してきた。背景にあるのが、中山間地域で公共交通機関が衰退し続ける半面、広大な面積に住民が点在する状況だ。事業主体となる企業がサービスを行い、移動を担保する。AI(人工知能)を活用した利用動向予測やスマートフォンのアプリを使った予約管理などを採り入れるのも特徴だ。ただ、事業を軌道に乗せるためにはさまざまな問題があることも確かだ。

中国運輸局は5日、日本版MaaSの実現に向けた「中国地方選定事業者に対する交付決定通知書手交式」を開催した。国土交通省がMaaSのモデル事業として全国19事業場を選定し、補助金を交付する。中国運輸局管内ではこのうち準備の整った広島県庄原市、島根県大田市の2事業を対象とする。土肥豊局長は式典で「過疎地型のMaaSとしてニーズは大きい。日本中から関心を集めるのでは」と述べ、高い期待を示した。残りの島根、鳥取の山陰エリアでの超小型モビリティについては、事業者の準備が整い次第サービスをスタートする。

庄原市では備北交通(山根英徳社長)が10月、市内の本村、峰田地区の住民向けと帝釈峡の観光地向けにサービスを提供する。市や商工会議所が「先進型過疎地対応型MaaS検討会」を立ち上げ、運営をサポートする。同社では住民向けにAIを活用したデマンド交通を採用する。観光地向けの回遊手段としてグリーンスローモビリティを試験導入する。

大田市では11月、バイタルリード(森山昌幸社長)が定額タクシーを中心とした過疎地型Rural MaaS事業を開始する。同社が市と連携協定を締結し、南西部に位置する温泉津町井田地区で定額タクシーやコミュニティバスを運行する。貨客混載や生活サービスとの連携の仕組みを構築しながら、AIを活用した配車、予約制御システムを採り入れる。運行状況確認、予約や決済が可能なアプリを開発する。

一方で、中国地区の自治体と、ソフトバンクとトヨタ自動車の共同出資会社モネ・テクノロジーズ(宮川潤一社長)との連携の動きも活発だ。福山市は3月から5月末まで、福山市服部学区を対象に服部学区乗合タクシーを運行した。モネ社のプラットフォームを活用し、アサヒタクシー(山田康文社長)が、過疎地で車両3台を走らせた。

府中市は9月17日から12月末まで協和地区を対象に、バス停と自宅付近を結ぶ地点をタクシー車両で走行する。モネの配車システムを活用し、運行を担うのはアシナトランジット(宮口泰彦社長)と中国タクシー(達川信二社長)で、毎週火、金に限定する。距離に関係なく、1人当たりの利用料金を中学生以上400円、小学生や各種手帳保持者を200円に設定する。

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平均寿命が長期化し、出生率が減少し続ける日本国内で、MaaSが注目を集めることは間違いない。特に中国地区は首都圏や近畿地区などへ人口の流出傾向が顕著なだけに、問題がより深刻化している。

ただ、民間企業が過疎地でサービス提供と収益確保を両立することのハードルは高い。さらに、高齢者を中心とした利用者がスマホやアプリを活用し、車両を予約して代金を決済することも簡単ではない。その中でいかに日本版MaaSを定着できるのか、それぞれの新しい挑戦が始まったといえる。

日刊自動車新聞8月22日掲載

カテゴリー 白書・意見書・刊行物
対象者 自動車業界