2019年5月27日
旧車の純正補修部品“復刻” ホンダ、日産に続きトヨタも
自動車メーカーが旧型車の補修部品の“復刻”に力を入れている。トヨタ自動車は新型「スープラ」の発売に合わせて、2002年までに生産を終えた「A70型」「A80型」の部品供給再開を表明した。すでにホンダは軽オープンスポーツ車「ビート」、日産自動車はグループ子会社を通じ「スカイラインGT―R」の部品供給を再開しており、トヨタの動きはこれらに続くもの。往年のスポーツカーには長く乗り続ける根強いファンがいる一方、法に定められた保持期間が終了し生産が中止された純正補修部品の入手は困難な状況にある。各社は純正補修部品の再供給を通じて、愛好家のカーライフを支え、ブランドロイヤリティの向上につなげていく。
◆「GRがやらなきゃ誰がやる」
「メーカーとオーナーが一緒になって古いスポーツカーを大事にする活動にしていきたい」―。トヨタの友山茂樹副社長は旧型スープラの補修部品再供給プロジェクト「GRヘリテージパーツ」を開始するに当たり、こう強調した。具体的な品目や供給時期は検討中だが、日常走行やコンディションの維持に必要で、自動車メーカー以外では生産対応が難しい部品に重点を置く考え。同社単独ではなく、部品を製造していた当時のサプライヤーに協力を要請する方針だ。
トヨタが旧型車の補修部品を再販するのは極めて異例なこと。「非効率な(利益の上がらない)ことはやらない会社」(友山副社長)であり、「社内では何でそんなことをやるんだという声があった」(大塚友美ガズーレーシング《GR》・エクゼクティブバイスプレジデントGR統括部長)と、自動車業界随一の収益をあげる同社の企業文化にはそぐわないプロジェクトであった。
突破口となったのが友山副社長が率いるGRの存在だ。12年前、中古の「アルテッツァ」で参加したニュルブルクリンク24時間レースを出発点としたGRの挑戦は「トヨタが作ったトヨタの壁をぶち壊す」こと。今回のGRヘリテージパーツも同様で、「GRがやらなきゃ誰がやるんだと。トヨタの壁をやぶれ」(大塚GR統括部長)との心意気をもって進めてきたプロジェクトと言える。
◆サプライヤーと品質確認体制
国産スポーツカーの代表車種の一つ「スカイラインGT―R」の歴代モデルに対する純正補修部品の供給も開始された。日産自動車とニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(NISMO)、オーテックジャパンの3社は17年から「BNR32型」「BCNR33型」「BNR34型」の3モデルを対象に、廃番となった純正補修部品を「NISMOヘリテージパーツ」として復刻生産している。
走行に欠かせない部品や車検に必要な部品などを優先し、現在、約180の品番をそろえる。オーテックジャパンが企画をまとめ、ニスモはユーザーニーズを踏まえつつ再生産の可否判断や価格調整を担当。日産がサプライヤーとの交渉や品質確認などを行う体制を整えた。
原則として、同一材料、同一サプライヤーによる「純正復刻品」となるが、工法や材質を変えた「リプレイス品」として提供する部品もある。また、通常の在庫販売を行う「一般生産部品」、生産に必要な最小ロットに達した時点で生産する「LOT受注生産部品」の2パターンで対応している。
ヘリテージパーツの取り扱いは、全国の日産系販社およびNISMOパフォーマンスセンター、NISMO大森ファクトリー、NISMO代理店となっている。
ホンダは1991~96年に販売したビートの純正補修部品を2017年から再供給している。今月20日には新たにフロントスプリング、ダンパーユニットなど4部品の受注を開始するなど、品ぞろえの拡充を進めている。また、初代「NSX」向けにエンジンや足回り、内外装を新車同様にレストア(修復)する「リフレッシュプラン」も提供しており、現在、12カ月待ちの状況だ。マツダも初代「ロードスター」のレストアサービスを18年から提供し始めた。
旧型車に対する純正補修部品の再供給には、金型の廃棄や劣化、再び金型を起こす必要も生じるなど、一般ユーザーには見えない多くのハードルがあることも事実だ。ただ、各社を代表するスポーツカーには長年にわたり乗り続ける愛好家、ブランドロイヤリティーの高いファンがいる。
こうしたユーザーと今後もしっかりとコミュニケーションを図るアフターサービス体制を持つことが、100年に1度の大変革期を迎えた自動車業界の中でもブランドの存在価値を高める一つの手段になる。
日刊自動車新聞5月24日掲載
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主催者 | 日刊自動車新聞社まとめ |
対象者 | 一般,自動車業界 |