2018年8月2日
〈西日本豪雨〉大きな爪痕、復興に向けて動き出す
7月6日から7日にかけて西日本全域を襲った集中豪雨は中四国の自動車業界に大きな爪痕を残した。被害が大きかったのが広島、岡山、山口、愛媛などで、島根でも一部事業場が被災した。死者総数が200人を超える豪雨災害では平成に入って最悪の事態だ。自動車業界では部品メーカーの被災などが影響し、マツダは広島の本社工場、山口の防府工場、三菱自動車は岡山の水島製作所を一時稼働停止した。各県とも新車ディーラーのショールームやサービス工場へ土砂の流入、整備工場の冠水、中古車事業者の展示場の水没などの事例が相次いで表面化しており、被害は甚大だ。一部地域では停電、断水などの影響で、多くの市民が日常生活もままならない状況に陥った。鉄道、道路網の崩壊で通行止めのルートが相次いだことから、物流を含めた道路ネットワークが崩壊し、毎日の足を確保するのも困難になったのが実情だ。さらに、自宅が床上浸水や土石流の流入で被災し、避難所生活を余儀なくされている自動車業界関係者も存在する。本格的な復旧には相当な時間が必要な見通し。ただ、災害発生から1カ月近くが経過し、それぞれが復興に向けて本格的に動き始めていることは確か。困難を乗り越え、前向きに再建に取り組む力が試されている。
◆広島県、100社超える事業者被災
広島県では広範な地域で豪雨災害の被害が出た。県内の死者と行方不明者が合計で100人を超え、影響は甚大だ。自動車業界では部品メーカーが被災した上、交通網が寸断されたため、マツダが生産工場を一時停止した。新車ディーラーや整備工場では土砂災害、土石流の流入、建物の床下、床上浸水が出ている。鉄道や高速道路の通行止めは一部で解除になったものの、完全復旧にはほど遠い。路線によっては1年以上の期間が見込まれており、復興はまだ道半ばといえる。
今回の豪雨災害で特徴的なのが局地的に雨が降り続いたこと。その中で被害が大きかった地域として広島では坂町、呉市、安芸区などがある。自動車業界では広島県府中町にマツダ本社がある関係で、周辺地域に多くの部品メーカーが存在する。広島呉道路、山陽自動車道の通行止めの余波で一般道が大渋滞し、部品の納品にも影響が出た。
当該地域は通勤にも便利で自動車業界関係者が多い。中には家屋の浸水や崩壊、土石流の流入などで避難所生活を強いられている住民が少なくない。それ以外でもJRや高速道路の復旧が遅れ、長時間通勤を余儀なくされている関係者も存在する。
一方で、広島県自動車整備振興会(上野弘文会長)の調べによると、県内で100社以上の事業者が被災した。建物の浸水、預かり車両の水没、自社前道路の陥没など被害程度はさまざまだが、復旧には相当の時間が必要だ。とくに被害程度が大きかったオールホンダ(ホンダカーズ呉中)では「矢野店」が被災し、ショールームや整備工場に土石流が流入した。他地域から流されたクルマが侵入し、土で埋まったままの状態になった上、自社が自衛隊の駐在場所になった関係で、暫くは復旧にも取り組めなかった。それでも同社では「協力してもらった関係者の思いを汲んで、再興に向けて頑張りたい」(後迫崇史社長)と話している。
◆岡山県、浸水車両1万台超えか
岡山県では河川の堤防が決壊し、町の大半が一時水没した倉敷市真備町の被害が特に大きかった。岡山県自動車整備振興会によると7月26日時点で、県内で82事業場が被災。真備町では全16事業場のうち14事業場が甚大な被害を受けた。流れ込んだ水は建物1階の天井付近や2階部分にまで達し、深さ2メートルから5メートルの被害に見舞われた。被害が小さかった2事業場も0・2メートルから0・4メートルの浸水があった。
真備町以外でも多数の事業場に浸水被害が発生した。床下浸水から1メートルを超える浸水まで被害の大きさは異なるが、岡整振の全23支部中16支部にも及ぶ広範囲なエリアで被災した事業場があった。自販連岡山県支部によると、被災後に一時的に営業を停止した会員ディーラーの店舗はあったが、現在ではすべての店舗が営業を再開した。
岡整振の会長と自販連岡山県支部の支部長を務める梶谷俊介氏(岡山トヨタ社長)は「県内の自動車関連団体、事業者各社はそれぞれが最善を尽して初動にあたった。ただ、災害直後から業界全体がより緊密な連携が取れれば、もっと良い初期対応ができたとも感じる。行政機関との協力も含めて、災害が起こる前に事前に詳細に打ち合わせる必要性があったかもしれない」と話す。岡山では数千台から1万を超える規模の浸水車両があることが明らかになり、ユーザーフォローや災害対応が長期化する可能性がある。それだけに「災害対応にあたるスタッフの負担も通常業務より大きい。今後心身ともにケアが重要になるのでは」(同)と指摘している。
◆愛媛県、展示、預かり車両も被害
愛媛県では西日本豪雨で南予地区の新車ディーラーの11拠点で建物被害を受けた。顧客の整備預かり車両、展示車を含めて300台近くが冠水などの被害を受けた。肱川が氾濫した大洲市内では4600棟が浸水したことから、一般車両の被害はこの10倍以上に達するものとみられる。
自販連愛媛県支部(岡豊支部長)のまとめによると、大洲市、宇和島市内の南予地区20拠点のうち、半数越えの11拠点で浸水などの被害が出た。このうち、日産プリンス愛媛・宇和島支店、愛媛ダイハツ・大洲支店が2メートル浸水した。このほか、大洲市内では多数のディーラー拠点で1階部分が浸水し、サービス関連機器が使えなくなった。
一方、新車・中古車の展示車、預かり車両などの被害も深刻だ。愛媛日産は宇和島と大洲支店で計70台、ネッツトヨタ瀬戸内は大洲支店で50台、スズキ自販松山は大洲支店で40台が浸水し、11拠点で合計284台の被害が出た。
地区ディーラー拠点で被害を受けたサービス工場では現在、簡単な補修作業業務を再開しているが、車検業務は他拠点に持ち込んで対処している。機器の入れ替えなどで本格稼働まで1~2カ月程度、要するものと予想している。
四国運輸局は大洲市内などの指定事業者が発行した7月7日~8月5日までの保安基準適合証・同適合標章の有効期間を8月6日まで延長する特例措置に踏み切っている。しかし今後、地区ユーザーの修理持ち込みが殺到した場合、対応面で苦労しそうだ。
■移動相談所を検討 四国運輸局大谷局長
【高松】四国運輸局はこのほど、高松市内で大谷雅実局長の定例会見を行った。大谷局長は「西日本豪雨被害の四国地区の実情をこの目で見て、被害の大きさを改めて実感した。精いっぱい、復興に向けて取り組みたい」と述べた。今回の豪雨では、レンタカー計25台、事業用トラック112台、整備工場が大洲市内で44工場など計62工場で床上浸水したと発表。JR四国の予讃線、予土線が現在も復旧工事で不通が続き、JR貨物も宇多津~伊予横田間で運休するなど、四国の輸送、物流にも影響を与えている。
一方、浸水戸数が4千棟を超えた大洲市内の一般車両の被害台数はつかんでいないが、被災自動車の点検整備や廃車を始め、自動車取得税の減免などの諸手続きの相談に応じる移動自動車相談所については「被害台数に応じて開設を検討していく」と述べた。
観光への影響については「宿泊所をはじめ、貸し切りバスなどを含めて被災地でないところも、相当なキャンセルが出ている。夏休みや秋の行楽シーズンの書き入れ時を迎えるが、四国全体の観光PR方法を改めて考えたい」と述べた。
日刊自動車新聞8月2日掲載
カテゴリー | 白書・意見書・刊行物 |
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主催者 | 日刊自動車新聞社調査 |
開催地 | 西日本豪雨被災地 |
対象者 | 一般,自動車業界 |