2026年6月9日
マツダのCO2回収技術、「貯蔵」に成功 カーボンネガティブの実現へ前進 仲間づくりへ“見せ方”にも工夫
マツダが実用化を目指す、車を走らせることで二酸化炭素(CO2)の実質排出量を減らす「カーボンネガティブ」の取り組みが着々と進んでいる。6月6、7日に開かれた耐久レース「スーパー耐久シリーズ(S耐)」では、回収したCO2をタンクに貯めることに成功した。2035年ごろの実用化に向け、サーキットでの技術実証とプロモーションに取り組み、仲間づくりを進めていく。
S耐第3戦の「富士24時間レース」。レース開始から5時間が過ぎた午後8時すぎ、車載CO2回収装置「マツダモバイルカーボンキャプチャー」を搭載した「マツダ3」のレースカーがピットに飛び込んできた。給油の後、台車に載せられたマシンはガレージに戻され、すぐさまリアハッチが開かれる。トラブルが発生したわけではない。車両後部にあるCO2回収タンクの交換作業だ。電動インパクトレンチでビスを外したメカニックは、隔壁の下からタンクを抱きかかえるように取り出し、空のタンクに付け替えてコースへと送り出した。目標通り5分ほどの作業だった。
リアハッチを開け、CO2回収タンクを取り換える。
翌朝もタンク交換を実施。今回のレースで合計804グラムを回収したという。昨年のレースから約9.6倍に増えた。
■CO2の「吸着」から「貯蔵」へと進化
大気からではなく自車の排気ガス中のCO2を回収してタンクに蓄える実証実験に取り組むマツダ。カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)燃料と組み合わせて、走行前よりCO2の実質排出量の削減を狙う。車を走らせることでCO2が削減できる“夢”の技術だ。
同技術は「ジャパンモビリティショー2025」で初公開した。S耐では昨年11月に実証走行を始めた。まずは多孔性材料のゼオライトを使って、CO2を吸着させる技術から検証した。
今回は「ステップ1.5」として、吸着したCO2を脱離させ、タンクに貯める一連の工程を実証した。ゼオライトは球体から、格子状の吸着剤の表面に塗布する形へと変わった。常温ではCO2を吸着し、高温では脱離するゼオライトの特性を生かすため、吸着剤は排ガスを使って一度150度まで熱し、分離したCO2を電動コンプレッサーでタンクに引き込んでいる。
マシンの形状も変わった。ルーフ後方にエアインテーク(通称「ちょんまげ」)を取り付けた。走行風をラジエーターに送る役割を持ち、温度約150度の排ガスを、ゼオライトがCO2を吸着する50度以下へと冷却する。
「ちょんまげ」は他社のレースカーも参考に、見た目と機能の両面から開発した。
今シーズンは貯蔵までの技術開発を完了させるのが目標だ。27年シーズンには、回収効率を高め、サーキットでの全開走行中でもカーボンネガティブの実現を目指す「ステップ2」への移行を狙う。
ただ、システム重量は現在約100キログラムあり、CO2を回収するとさらに重くなる。今後はシステムの設計を見直しつつ、車両側でも次世代車の技術を用いて20キログラム以上の軽量化を目指す。
■レースで技術を磨き、理解を広める
マツダは35年ごろの実用化を目指している。市販車に搭載した場合、ガソリンスタンドでの給油時などにタンクを回収し、セメントやプラスチック、炭素繊維の原料などに再利用する世界を描く。実現には異業種を含めた他社との協力、さらには社会からの理解を得ることも必要だ。
このため“見せ方”にもこだわっている。マシンのサイドスカートにはLEDランプを設置し、回収量をリアルタイムで表示。リアガラスには「吸着」「脱離」「カーボンネガティブ」のどの状態かを表すランプを取り付けた。デザイン本部も監修しているという。
サイドスカートのLEDランプで回収量を示すなど、見せ方にもこだわった
来場者がMR(複合現実)でメカニズムを体感できるコンテンツもつくった。米アップル製のゴーグルをかけると、システム内部を通過する粒子の目線で映像が投影される。マツダが目指すビジョンとともに、CO2の吸着と脱離工程が直感的に理解できるように工夫している。
レースで技術を検証し、マツダの活動と意義に対する賛同の輪を広げる。ドライバーも務める前田育男シニアフェローは「『レースは自分たちと関係ない世界』というのが一般的な感覚だと思うが、もっと身近なものにしたい」と狙いを話す。
今回のレースは燃料漏れのトラブルが発生し、ゴールまで残り4時間でリタイアした。ただ、回収システム自体は489周を走った後も大きな問題はなかったという。対策を講じ、7月の第5戦で再びレースに挑む。11月の最終戦では、CO2を貯蔵しながら昨年の最終戦と同等以上の速さを目指すという。
自動車産業にとってCO2の排出削減は必須課題だが、電気自動車(EV)には適さない市場や使用環境が多いのも現実だ。内燃機関を生かした新たなアプローチの確立に向けて、マツダは試行錯誤を続けていく。
日刊自動車新聞6月9日掲載














