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自動車産業インフォメーション

2026年2月24日

自動車メーカー、「AIエージェント」の開発活況 利便性に加え安全性も 通信・処理の課題をどう克服するか

自動車メーカーの間で車載AI(人工知能)エージェントの開発が活況だ。国内メーカーでもトヨタ自動車、日産自動車、ソニー・ホンダモビリティ(川西泉社長、東京都港区)などが開発を進めている。先行する米テスラや中国メーカーは独自AIモデルの導入を進める。一方で、通信速度や処理能力といった課題もある。エンターテインメント性に加えて、事故の削減といった「実益」をもたらすことができるのか注目される。

AIエージェントは生成AIを使い、乗員に自然な言葉で情報を提供することが最大の特徴だ。例えば、目的地に関する最新状況を伝えたり、ドライバーの趣味・嗜好に合った情報を届けるといったことが可能になる。文書の要約などを行えるエージェントサービスはすでに数多くあるが、自動車ではナビゲーションシステムや車載エンタメとの連携が模索されている。

国内メーカーの先行事例となりそうなのが、米国での納車が2026年に始まるソニー・ホンダモビリティの「アフィーラ1」だ。搭載予定の「アフィーラパーソナルエージェント」は、ドライバーの行動パターンを学習し、気軽な雑談までできる。例えば「いつもラーメンを食べているから定食屋に行こう」といった提案をしてくれるという。米マイクロソフトと連携し、音声認識性能や返答力を高めている。

日産もAIエージェント「オートDJ」を開発中だ。横浜市内で実証実験中の自動運転モビリティサービス「イージーライド」への搭載を念頭に入れる。米オープンAI「チャットGPT」の大規模言語モデル(LLM)を使い、走行地点周辺の情報をラジオDJ風に紹介する。最新のイベント情報なども反映され、乗るたびに変化を楽しめるという。開発担当者は「乗車体験を豊かにして、移動のきっかけをつくりたい」と話す。将来、競合サービスが現れることも想定し、差別化につなげる狙いもある。

日産のオートDJはチャットGPTで移動をエンタメに変える

トヨタはAIエージェントを安全・安心に生かす考えだ。インフラから得たリアルタイムのデータから事故発生リスクを先読みし、AIエージェントが音声でドライバーに注意を促すシステムを開発している。

衝突被害軽減ブレーキなどの普及により交通事故の死者数は減少傾向にあるが、「ドライバーの死角など予期せぬ飛び出しの事故は減っていない」とデジタルソフト開発センターの皿田明弘センター長は話す。「交通事故死傷者ゼロ」の実現に向け、クルマと人、交通インフラが「三位一体」となった取り組みを重視する。

トヨタは、インフラ側ではカメラやLiDAR(ライダー、レーザースキャナー)などを設置した「スマートポール」を交差点などに設置し、クルマと協調する「管制システム」の開発も進めている。また、車内ではドライバーモニタリングシステムを使い、映像や音声から運転者の感情を察知。危険運転などを抑制する会話を行い、行動変容を促すことを目指す。

トヨタが開発するAIエージェントは運転者の行動変容を促す

海外メーカーでは、独フォルクスワーゲン・グループも生成AI「チャットGPT」をベースとしたエージェントの搭載を進めている。米テスラは独自AIモデル「グロック」を使い、中国メーカーは同国発の「ディープシーク」を基盤とするエージェントを普及させようとしている。

課題となるのが、AIとの会話を支える車載ECU(電子制御ユニット)の処理速度や通信遅延だ。例えばアフィーラ1では、AIエージェントとの会話データはクラウド上に集約されるため、クルマを乗り替えてもデータを引き継げるというが、スムーズな会話には安定した通信環境が欠かせない。

「アフィーラパーソナルエージェント」は個人の嗜好(しこう)も学んで最適な答えを返す

高性能ECUを使って車両側の能力を高める方法もあるが、価格が上がり、電力消費量も増える。手放し運転など高度運転支援システムの進化にも高性能ECUは欠かせず、処理能力への要求は高まるばかりだ。さらには会話データの管理といった倫理的な問題もある。各社は技術の進化で得られる利便性と、新たに現れる課題とを天秤にかけながら、最適解を見つけようと開発を続ける。

日刊自動車新聞2月24日掲載